陽炎の君 | ナノ








与えられた酸素の環境



征十郎君、いい子だよなあ。
デスクに座ってディスプレイを眺めながらふと思う。仕事の合間、集中力が途切れたときに思い出すのは八割方征十郎君のことだ。(残りは今日の夕飯について)初めはどうなることやらと頭を抱えたくなったが、二人暮らしというのはなかなかいい。彼女だとか嫁だとか、そういうものを必要としない俺にとって、大人のような子供との時間はわりかし気分の良いものであった。
征十郎君、頭いいからなあ。
俺は自分が面倒臭がりな人間であることを十二分に理解している。今まで付き合ってきた女性達には皆揃いも揃って同じことを言われてきた。もっと構ってくれとか私のことも考えてとか、その発言が面倒だと感じてしまう俺は、きっと誠実な態度なんて取れていなかったんだろう。自分の時間を縛られるのは、誰だって好きじゃない。と思う。

「オラ遠坂、ぼさっとしてねぇで仕事しやがれ!」
「いっ!?つー、アップロード終わるまで待ってるだけですよ。それにもう帰宅時間だし」
「最近よくボケーっとしてんだろが。ん?アレもう終わったんか」
「はい。今送ったんで、明日にでも確認してくださいね。んじゃお先しやーす」
「待て遠坂ー!今日は合コンだって言っただろ!!お前連れてくって約束しちゃったんだよお願い帰らないで、ついでに俺の仕事手伝って!!」
「やだね、俺行かないっつっただろ。あとテメェの仕事はテメェで片付けろ。っつかれっしたー!」
「おー、気ィつけてな」
「嘘だろ遠坂様ァァァアア!!!!」

上司の暖かい言葉と同期の汚い叫び声をバックにオフィスを出る。首からぶら下げていた名札を外して、反芻。

(合コンねえ)

そんなのより、征十郎君とご飯食べる方がよっぽど楽しい。
余計な詮索をしない、賢い子供との時間の方が。










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