小説 | ナノ







なまえはキスが好きだ。
それ以上に抱き合う行為が好きらしかったが、俺はそれで我慢するつもりなど毛頭ない。しかし手を出そうとするとそれはそれで怒るため、(真っ昼間から何考えてんだバカ!)妥協案として口付けを選択している。

「…ん」
「ふ、ぅ」
「…なまえ、口開けて」
「あ…、は」
「ん」
「…っんん…!」

暫く啄むような口付けを繰り返して、執拗に上唇に吸い付く。人間は総じて下唇より上唇の方が敏感だ。なまえも例に漏れずそこが弱い。

(まあ、わりとどこでも感じてるけどね)

ちらりと舌先だけ出して、唇を湿らせるようになぞる。僅かに顎を上げた状態のなまえの首筋がぴくぴくと震えていて、思わず吹き出してしまいそうになった。きつく閉じられた目が可愛くて、顔をずらし唇に柔く噛みつく。分かりやすく跳ねた肩をするりと撫でながらあやすように背中を叩いた。

「や、…っ噛まない、で」
「どうしてだい」
「くすぐったいんだよ、…っひ、ゃ」
「…くすぐったいんじゃなくて?」
「はぁっ、………う、きもち、いい…からぁ…」
「ふ、可愛い顔」

はむはむと甘噛みを繰り返してやれば、唇を震わせ薄く開いた隙間から唾液を零す。覗いた赤い双眸は困ったように視線をさ迷わせていて、八の字に垂れ下がった眉と相まって随分と扇情的だった。
下唇に前歯を滑らせていれば、不意に唇に湿った感覚。先ほどよりも開いた唇から覗いたなまえの舌が物足りないとでも言うように絡んできて、今度こそ笑ってしまった。

「う、…?」
「なまえは淫乱だよね」
「…は?そんなことない」
「でも、快楽に溺れやすい。気持ちいいこと、好きだろう?」
「……それは、征十郎が」
「俺が?」
「気持ちいいことばっかりする、から…征十郎にされたら、俺、何でも嬉しいし…好き」

熱に浮かされたような瞳を下に向けて、僕のシャツを握り締めながらうわごとの様に小さく呟く。おまけに口寂しいのか唇に指を添えて時折押し付けているのが見えて、思わず息を飲む。
なまえはこうやって教えてもいないのに無意識に男を誘う。僕の前だけでならいいが、これを涼太や大輝の前でやっていないだろうなと考えるだけで頭が痛かった。

「…なまえは僕が大好きだね」
「? なに今さら、当たり前じゃん」
「当たり前か」
「好きじゃなきゃこんなことしないよ」

機嫌を損ねたように唇を尖らせ始めたなまえの頭に手を置いて額にキスする。耳元で「僕は愛してるけど」と呟けばすぐに笑って抱き着いてきた。

「俺も愛してるー」
「それはありがとう」
「俺、征十郎がいたら他に何も要らない」
「へえ?」
「征十郎とひとつなら良かったのに」


さっきまで浮かべていた柔らかい表情のまま笑いながら、覗いたなまえの瞳はどこまでも深い海の底のようだった。


「僕はこれでいいけどね」
「えー?」
「なまえに触れたい時、ひとつだとどうしていいか分からない」
「…そっか」



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