小説 | ナノ
帝光時代
僕となまえ君は同じクラスだ。今日は調理実習があって、なまえ君も例に漏れずエプロンに三角巾姿。とても似合っていてかわいい。ちらりと視線をずらせば手際よくボウルの中のものを混ぜ合わせていく姿があり、思わず頬が緩む。
「料理、よくするんですか?」
「ん?いや、初めてだなあ」
「そうですか…何だか手付きが良かったので驚きました」
「はは、みんなと同じようにやってるだけだよ」
はい、と渡されたボウルをテーブルに置いて、どろどろになった液体をスプーンで掬い型に流し込んでいく。
「あ、テツヤ、それ入れすぎ」
「…え、多いですか?」
「うん。半分くらいでいいから」
手持ちぶさたになったのか、まじまじと僕の手元を見つめているなまえ君に手に変な汗が滲むのが分かった。何と言うか、なまえ君のわりと大きめの瞳で見つめられるのはあまり得意ではない。ついそちらにだけ意識を持っていきたくなる。自分になついて擦り寄ってくる猫がいたら確実に撫で回すだろう。それと同じで。
「…ふう…」
「よーし、じゃあ余熱も終わるし焼いてみよっか」
「はい。楽しみです」
「テツヤ甘いの好きだもんねー」
「なまえ君こそ」
「まあね。ふふー、砂糖の量多めにしたから、きっとすごく美味しいよ」
「いつの間にそんなことしてたんですか」
「ナイショ」
材料は予め先生が計って各グループ分用意していたのに、一体どこから調達してきたのだろうか。唇に人差し指を立てて楽しげに笑うなまえ君に苦笑ともとれる笑みを向ける。
ちなみに同じグループである女子2人は他の女子同様黄瀬君の周りへと集まっており、僕達の周りはなんとも静かなものだった。僕としてはなまえ君と2人きりで過ごせてラッキーだし問題はない。なまえ君はなまえ君で「涼太は大変だねー」とオーブンから目を離さずにけらけらと笑っている。
「出来たら食べちゃう?」
「いえ…お昼が食べられなくなるので、持って帰ります」
「ああ、そっか。俺は食べちゃお」
「ちゃんとお昼も食べないとダメですよ」
「分かってる分かってる」
段々と香ばしい香りが立ち込めてくるなか、ふとなまえ君の頭に目が行った。「…テツ?」と首を傾げてこちらを向いたなまえ君に小さく手招きをする。
「?」
「あ、あっち向いてください」
「え?うん」
無防備にも近寄ってきて背中を向けたなまえ君。こんなだと赤司君に叱られますよと心の中だけで呟いて、お腹に手を回しながら旋毛の辺りに鼻先を埋める。すこし甘い香りを楽しみながら、マフィンが焼き上がるまでの数十分、僕となまえ君はのんびりとお喋りに興じたのだった。
(あああ黒子っちずるいっスー!!)
(黄瀬君、うるさいです)
(よし、うまく焼けたぞー)
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小動物同士仲良し