小説 | ナノ





「あー」
「はい」

口の中に放り込まれたみかんを咀嚼して、そのひんやりとした果汁を味わう。前も後ろもぽかぽかな俺は既に眠気に襲われているけど、あと少しで年が明けるともなれば起きている他ない。こたつに突っ伏した俺の頭に征十郎の顎が乗せられて地味に痛かった。

「あー…あと五分か…」
「ああ。やり残したことはないかい?」
「ん、特に思いつかない」

ただひたすらにみかんを剥いている征十郎だけど、その大半は俺の胃の中に消えている。また一つ唇に押し付けられても俺はもうお腹いっぱいだ。そのままにしていたら強く押し付けられて、果汁が目に飛んできた。

「ちょお、痛い!」
「さっさと食べないからだろう」

まるで気にした様子を見せない征十郎はそのままみかんを押し込んできて、優雅に汚れた指を舐めていた。片目を擦りながらもごもご言っている俺は酷く滑稽だろう。おのれ征十郎め。

「あ、カウントダウン」
「えっ!俺最後にはチョコ食べることにしてるのに!!征十郎どいて!」
「もう遅いから座ってろ」
「えー!」

テレビからは陽気にカウントダウンの声が流れてくる。あわあわと席を立とうとしても、後ろから抱きしめられてしまっては敵わない。目は痛いしチョコは食べられないし、なんて年越しなんだろう。

「うう…最後の最後になんて年なんだ…」
「はいはい。ほら」
「? わっ」
「なまえ」

脚を持ち上げられて、無理矢理向き合う形にさせられる。俺はこたつと征十郎で十分にあったまっていたけど、征十郎は半纏を着ていた。割と寒がりだよなぁ、こいつ。

「なに…?」
「愛してるよ」
「え、ん、」

目元を緩ませながら言われた言葉を一瞬で理解した俺は、その言葉に赤面する間もなく唇を奪われる。背後で年が明けたことを告げるテレビの音声を聞きながら、ああしてやられたと瞼を下ろすのであった。


(一人だけ言って満足しやがって!)



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