小説 | ナノ





冬休み、久々に帰ってきた征十郎が隣で寝ている。すやすやと眠るその姿が妙に愛しくて、つい携帯を手に取ってカメラを起動した。試しに頬にキスしてみたけど起きる気配はなくて、よっぽど疲れてるのかと少し不安になる。静かに押されたシャッター音は部屋に響くこともなく、無事アルバムに収まったようだ。

(…寝よ)

午前三時、ぱちりと枕元の明かりを落とす。征十郎の肩に擦り寄ったらそのまま抱き締められて、冷え切っていた脚を絡め取られた。
あったかい。
一緒に寝るのも久し振りだったから、その日は随分とぐっすり寝てしまった。





「出掛けた?」

朝を通り越して昼に近い時間に起きた俺は、征十郎がいないことと寒いことにダブルの攻撃を食らうことになる。これでも眠い目擦って起きたんだけど、そもそも寝た時間が違い過ぎるからなあ。目に見えてがっかりした態度を取る俺に無情にも留守番を頼んでいってしまった家族を、少しは恨んでもいいだろうか。

「…あ、」

卵焼きをつつきながら携帯を弄っていたら、昨夜に撮った画像が出てくる。画面いっぱいに広がるそれにそう言えば写真なんて撮るの珍しいな、とか思う暇もなく、ただじっと見つめることしか出来なかった。
会いたい。ただでさえ普段会えないのに、なんで今別々に行動してるんだろう。

「……征十郎」

昨日散々呼んだ名前も、口に出すだけでこんなに苦しくなる。手のひらの小さな箱の中で眠る征十郎を見ていたらどうにもたまらない気持ちにさせられて、つい、冷たい液晶画面にキスをした。

「(…うわあ、ないわ俺、ないない)」
「ただいま。なまえ、起きたか」
「うわあああ!!!」
「?」

背後から突如として聞こえてきた声に思いっきり驚いた俺は、そのあまりの衝撃に持っていた携帯を放り投げた。遠くで「ガンッ」という落下音を聞きながら、隣にビニール袋を置いた征十郎をぎこちない動きで振り返る。

「お、かえ、り」
「どうした」
「出掛けたって、聞いたから……」
「ああ。買い物がてら走ってきただけだよ。…それより、携帯が飛んだが」
「あ、う、うん」
「……」

ばくばくと跳ねている心臓を押さえながら携帯が飛んだ先に足を進める。訝しげにこっちを見てくる征十郎の視線が痛くて死にたくなった。携帯を拾い上げてみれば特に目立った傷もなく、ほっと息を吐いて立ち上がろうとした、ら。

「随分と慌てて、何か知られたくないことでもしていたのかい?」

後ろから抱きすくめるようにしてきた征十郎が、やけに優しい声で囁く。ついでに携帯に指を這わせて笑った瞬間、血の気が引いて行くのが分かって完全に硬直した。やばい。あんなことしてたなんて、絶対にバレたくない…!
勢いよく引いて行った血液が、今度は沸騰しそうなくらい熱く巡っていく。じわりと滲んだ汗まで征十郎にはお見通しなんだろうけど、正直なにも話す気はないのでさっさと離して欲しかった。面倒臭がりな俺は、携帯にパスなんて付けていない。

「正直に言わないなら今ここで襲うよ」
「え…っ、あ」
「浮気?まさかなまえに限ってそんなことはないと思うけど」
「ない!そんなことしてない、や、征十郎…ッ」
「じゃあ何だい?言えないの?」
「やだ、も、ううー」

擽るように腹部を撫でてくる征十郎の手に、不覚にも生まれる熱を払うように頭を振る。ここは俺の部屋でも征十郎の部屋でもない、誰が入ってきてもおかしくない普通の居間なのだ。

「征十郎…」
「なに、言わないつもり?」
「………その、」

肩越しにちらりとその表情を覗き見れば、ありありと不機嫌ですと書いてある。このまま言わないと拗ねるのは時間の問題なのは分かっているけど、だからってそうそう言えるもんじゃない。困った。正に絶体絶命だ。

「……へえ、本当に言わないつもりか。ふうん」
「…………」
「じゃあ僕は出掛けて来るとしようかな」
「……う、」
「さっきテツヤ達と会ったんだ。久々だし一緒に遊んでくるよ」
「く…も、う、わかったよ!言うけど、征十郎絶対引くからな!!」

分かりやすい挑発なのは分かってたけど、征十郎なら本当に出掛けてしまいかねない。そんなのは嫌で、半ばやけくそになって写真フォルダを開いた。
征十郎が後ろから覗き込んでくる。もうどうにでもなれと目を瞑って、例の写真を突き付けるように携帯を差し出した。

「…いつの間に撮ったんだい、こんなもの」
「昨日、征十郎が寝てるとき」
「へえ」
「その…えっと、」
「…で?これを撮って、どうしてたんだ」
「………き、キスしてた」
「え」

みるみるうちに顔を真っ赤にしたと思ったら、震えながら可愛いことを言うものだからどうしようかと思った。やけに携帯を近付けて見ているから視力でも落ちたのかと思ったが、なるほどそういうことか。画面に映る自分の姿になんとも言えない気持ちにはなるが、なまえがそんなことをするとは思っていなかったため完全に喜びの方が勝ってしまっている。かわいい。

「もう〜……」
「かわいいね、なまえ」
「うっさい、ばか」

顔を隠している両手を握って、そのまま唇を重ねる。

「携帯よりこっちの方がいいだろう」
「…そりゃね」

苦々しく笑ったなまえの唇にもう一度それを乗せて、今日の予定を立てるべくそっと離した。名残惜しそうに眉を寄せたのは、無意識なんだろうけど。



(もう家でのんびりでもいいんじゃないか)
(えー、折角なんだから外出ようよ)
(涼太あたりがいる気がする)
(家でもいっか)
((涼太…))




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