小説 | ナノ





腕の中にはなまえっちがいる。最初のうちは体重を掛けたり頬擦りしたり、何かしらのアクションを起こせば構ってくれていたが、今はすっかり本の世界に入り込んでしまって手持ち無沙汰になっていた。背中を反らすようにしてソファーに凭れ、ぼんやりと天井を仰ぐ。
部活終わり、くたくたになって帰宅したら家の前になまえっちがいた。「来ちゃった」と言って何でもないことのように笑うその姿に、一瞬意識が遠退いたのは言うまでもない。(疲れ過ぎて幻覚を見てるのかと思った)
ちゃっかりお泊まりセットまで持参していたなまえっちを家に上げて、碌なものが入っていない冷蔵庫から適当にご飯を作ってくれたなまえっちはいいお嫁さんになると思う。言い間違えてはいない。お嫁さんだ。

「それにしてもびっくりしたっスよー」
「ごめんね。なんか最近会ってないなあと思ったら寂しくなっちゃって。連絡するのも忘れてた」
「まあ、丁度仕事もなかったんでよかったっスけど」

平静を装ってみたけど、突然思い立ってそのまま会いに来てくれた事実はどうしようもなく嬉しくて、なまえっちがシャワーを浴びている間ずっと床に蹲って悶絶していた。今、俺と同じシャンプーの匂いを纏わせているこの人は、俺が思っているよりもずっと俺のことを好きでいてくれていると自惚れてもいいんだろうか。

「なまえっち。すき」

そこが弱いと知っていて、わざと耳元で呟いてみる。言葉にしたら一瞬で胸の奥がきゅうと締め付けられる感覚が襲って来て、苦しいのに幸せな、涙が出て来るような気持ちに浸るみたいに腕の力を強めたらなまえっちが本を閉じてこっちを振り返った。心なしか、その頬は赤らんでいる。

「…あのね、涼太」
「なんスか?」
「そういうの、あんまりやらない方がいい」
「はい?」

何故か不満そうに赤面するなまえっちを見ながら、綺麗な目だなあと的外れなことを考える。赤司っちと同じ目をしていて、赤司っちは絶対しないような表情で俺を見る。
ふと背筋を駆け上がっていった感情は、とても気持ちがいいものだ。

「涼太は質が悪いね」
「えー、そっスか?」
「うん。流石慣れてるだけある」
「えっ!ちょ、どういう意味スか!」



わっと騒ぎ出した涼太を尻目に腹に回っていた腕を解いて寝室に向かって歩き出す。まだ煩い心臓に舌打ちしたら「なまえっち!?」という悲鳴にも似た声が上がった。

「別に涼太にしたわけじゃないから…」
「それでも嫌っスよ!」

ぎゃんぎゃんと騒ぎながらその巨体でのしかかって来る涼太に進路を阻まれ、尚且つどさくさに紛れて首筋を舐められて思わず変な声が出る。なんだかやられっぱなしで悔しくて、思いっきり睨んでやったらぴしりと音を立てて固まっていた。

「……?(効果覿面?)」
「…(くっそ…なんなんスかもう…!!)」

首筋のがよっぽど驚いたのか、若干涙目になりながら上目遣いで睨んで来るなまえっちの破壊力と言ったらもう、言葉にするまでもなかった。
残念ながら家にベットは一つしかなく、俺も、もちろんなまえっちもソファーで寝る気なんてサラサラない。この胸だけではない高鳴りを抑えて眠れるのか、長い夜になりそうな予感に一人ひっそりと溜め息を吐いた。



(…ん……)
((やばいあったかいかわいいきもちいい寝れない))
(……り…)
((り!?まさかの寝言で名前呼びフラグが))
(りじりこんぶ…)
(どんな夢スかあああ!!!)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -