小説 | ナノ







「征十郎」
「なんだい?」

ベッドに腰掛け優雅に雑誌を読む征十郎を床から見上げながら、少し掠れた声で呼ぶ。先程から放っておかれていい加減暇なのだ。むくりと起き上がれば此方に向けられる視線に少しの優越感が顔を覗かせる。

「その雑誌、そんなに面白い?」

大体、昨日突然帰ってきたかと思えばさっさと自分の部屋に入って寝ちゃうし起きてみれば一人でまったりしてるしもう意味がわからない。せっかく電話じゃなく直に話せるのに。大輝のところにでも行ってやろうか。

「おや、随分甘えん坊だな」
「…うるさい」

大体俺がくっつきたがりなの知ってるくせに、散々無視しやがってこのやろう。将棋の駒ぶん投げるぞ。このでこっぱちめ。心の中でぶつくさと文句を並べながら征十郎の脚に纏わりついていると、何かを感じ取ったのかTシャツの衿を掴み上げられた。

「ぐえ」
「でこが何だって?」
「んぐぐ」

こういうとき双子は不便である。お互いが考えていることはなんとなく分かってしまうし、何より征十郎は頭が良い。俺の思考なんて筒抜けなんだろうと思う。
征十郎の膝の上に下ろされると違和感の残る首元を擦りながらほっと息を吐く。何だかんだ構ってくれる流れだ。

「はあ、死ぬかと思った」
「あはは」
「あははじゃないよバカ、もう」
「可愛いね、なまえ」
「意味がわからない」

なんだか満足げな征十郎の笑みに、こいつわざとかと眉を寄せればそこに落ちてくる唇。思わず目を瞑って征十郎の服をぎゅうと握った。もう一度「可愛い」と呟いたかと思えば、擽るように鼻筋を唇がなぞる。

「…や、」
「擽ったい?」
「うん」

じわじわと顔に血液が集まってくるのが分かる。バカはどっちだろう。こうやって征十郎に触られると途端に思考能力が鈍って、心臓が落ち着かない。はむりと咥えられた唇に息が詰まる。

「んぅ、」
「…ん」

ゆっくりと角度を変えながら啄まれて、たったそれだけなのに、久々に触れたそこから指先まで痺れるくらいの快感が走り抜ける。うわ、やばい、きもちいい。

「は、…征、じゅ、ろ」
「…まだキスだけなんだけど」
「そんなの分かって…ひっ、あ」
「……まったく、困った弟だね」

シャツの隙間から滑り込んできた手がぐっと腰を掴んで、思わず上擦った声が飛び出る。でもだって、ほんと久々だし。何となく口寂しくて無意識に唇を触る癖ができたのは征十郎が洛山に行ってからで、お陰でいじり過ぎた唇はかさかさになりこの冬俺は人生で初めてリップクリームを使うはめに……じゃなくて、今は昼間だ。この手は何なんだ。まだ太陽は頭上を少し過ぎたくらいだぞ。不健全極まりない…

「っ、!」
「いきなり現実逃避に走らないでくれるかな」
「うぁ、だ…っめ」
「なまえ」
「…や…!」

耳にぴたりとくっついた唇から、吐息と一緒に意図して低くした声が流れてくる。俺はこれがとんでもなく苦手だ。全身の肌が粟立つ感覚に混じる擽ったさのような、でも確かな快感。正直これだけで失神できる自信があるほどなんだから切実に止めてほしい。本気で死んでしまう。
がっしりと固定された頭はびくともしないし、短くなる呼吸に追い討ちをかけるように腰を掴んでいた手がするすると上に上がってくる。言っておくが俺は擽りに弱い。もう少し強く触られればそれはただの擽ったさなのに、絶妙な力加減が背中を這い上がる快感を作っていた。

「せい、征十郎」
「ん?」
「っあ、つい…」
「…なまえ?」
「う、ぁ」
「なまえ」

触られるのは嬉しい。気持ちいいことも好きだ。しかし如何せん久々すぎて、身体が異常なまでの反応を示しているのに頭がついていかなかった。軽く混乱しながらも、もっと征十郎でいっぱいになりたくて、胸が締まるような苦しさに目頭が熱くなるのにも構わず必死でしがみついた。ら、ぽんぽんと頭を撫でられる。

「ほら、息吸って」
「すー…」
「吐いて」
「はー…」
「どうだい?」
「…はあ…へいき、だけど、待って」
「いいよ、今日はとことん甘やかしてあげよう」

毎日汗だくになりながら鍛え上げているその大きな胸板に顔を埋めて、ゆっくりと深呼吸。征十郎の匂いにじんわりと暖まる胸のなかを見透かしたように、肩を揺らして笑った征十郎は、悔しいけれどやっぱり、かっこいいのだった。


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初っぱなから怪しい雰囲気になるところでしたてへぺろ。うちの赤司くんは基本甘いです



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