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(赤司君のお兄ちゃん)


「まさか征十郎が京都に行ってしまうなんて…」

顔を覆ってさめざめと嘆いて見せる僕の兄は、先程から同じ言葉を嫌になるほど繰り返している。

「東大ではなくて京大受ければ良かった…何てことだよ」
「いい加減にしつこいよ、兄さん」
「しつこい!?何を言うんだ征十郎、兄さんがどれだけ悲しいか分かっているのかい!」
「もう決まってるんだから、今更喚かないで欲しいんだけど」
「嗚呼、父さんも母さんもどうして許可したんだ…征十郎、考え直そう」
「ねえ、僕の話聞いてた?」

僕の肩に手を置いて凄んでくる兄さんの顔が突然歪む。どうかしたのかと首を傾げたら「脚つった」と言って俯いてしまった。兄さんとまともに話していると疲れるだけなのは重々承知だが、会話を始めてしまった時点で逃げるつもりもないのでそのまま放置する。

「…そうだ…京都行こう」
「は?」
「兄さんも京都に行く」
「…言うと思った」
「止めたって無駄だからな」
「ああ、止めないよ」
「えー?いいの?そこは止めるとこじゃないのかい」
「観光くらい好きにしたらいいさ」
「だから観光じゃないってば!…もう、征十郎のあの白い馬、馬刺にして食べてやる」
「……」

大学生の兄が涙目でさらに頬に空気まで溜めてこっちを見てくる姿は、弟としてあまり見ていたいものではない。しかも僕の愛馬が危機に晒されているようだ。(兄さんはやると言ったら必ずやる)
とうとう僕にしがみついてまで来た兄さんに頭を抱えたい気分になりながら、荷物を纏める為にその重い体に膝を入れて沈めておいた。まったく、本当に追ってきそうで怖いな。


(…………)
(やあやあ征十郎、さっきはよくもやってくれたね。痛かったなあ)
(…僕が家を出るとき、兄さんはまだ落ちていた筈なんだが)
(はは、ヘリに決まってるじゃんばあか。でもそんな馬鹿な征十郎が好きだよ!)
((イラァ))



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