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※夢主が全然喋らない






「…あ」

無意識に零れた呟きは、普段の喧騒に掻き消されてそのまま霧散する筈だった。それでも目の前に座る赤司君はペットボトルの蓋を弄りながら「どうした?」と首を傾げる。

「…聞こえてましたか」
「ああ。なまえかい?」
「はい。半分当たりです」
「半分?」
「赤司君もですので」

きゅ、とペットボトルの蓋が閉められる。なまえ君と赤司君の飲み物が揺れて、手についたのであろう水滴が払われた。夏の日差しにきらきらと光るそれは二人ほぼ同時に舞ったもので、今日も暑いなあと的外れな思考が過る。

「二人とも、さっきから同じタイミングで動いているので…気になりました」
「…ああ」
「やっぱり双子だと動向も似るんですかね」

さっきからしつこく付き纏う黄瀬君に体力を奪われている様子のなまえ君は、少し疲れたように肩を回す。それをじっと見つめながら、赤司君が口を開いた。

「別に、双子だから似ている訳じゃないさ。一卵性の双生児にはそういった例もあるようだけど、二卵性双生児は普通の兄弟姉妹と何ら変わりはないからね」
「…それでも、君達の意志疎通力はかなりのレベルだと思いますが」
「確かに、仮にも同じ母胎を共有して、それこそ受精した瞬間から一緒に生きてきているからな。…でも、」
「でも?」
「テツヤの言うそれは、もっと簡単なことだよ」

いつもの静かな笑みを湛えて、赤司君が頬杖をつく。同じくして溜め息を付きながら手のひらに顎を乗せたなまえ君は、黄瀬君の頭に手刀を食らわせている最中だ。

「好意、または敬意を抱く相手に好かれるためには何をしたらいいと思う?」
「はあ…?そうですね、まずは相手の興味を引くようなことをすべきかと。それで、自分に注目させるところから始めます」
「うん、なかなか良いな。それで自分に注目させて、一番効果的かつ手っ取り早く好意を抱いてもらえる行為といえば?」
「残念ながら、そんな便利な技は聞いたことがないんですが」

やけに楽しそうに喋る赤司君に想像力を働かせながら口を開く。でも、それもすぐに底を尽きてしまえば、後は答えを与えられるまで待つだけだ。

「もうお手上げかい?テツヤもさっき言っただろう。真似だよ」
「え?」
「相手に気付かれない程度に、その動きを真似れば良い。相手が髪を触ったら然り気無く自分の髪を、手を揺らすなら自分の手も。人は、自分の動きを模倣する人間に対して無意識に好意を抱くものなんだよ。無条件で自分を慕っているんだと、本能的に理解するからね」

なまえ君に視線を向けた赤司君に、なまえ君がそれを返す。可愛らしくふにゃりと笑ったなまえ君。赤司君の頬が緩むのが分かった。

「ミラーリングだ」
「ミラーリング…」
「シンメトリーとも言うね。両方同じになることで、心の安定が得られる。僕となまえはそれをお互い無意識でやっているんだろう」
「…はあ…」
「長年連れ添った夫婦はよく似通うとか、聞いたことはないかい?あれも同じさ。お互いがお互いの好きなところを真似るからそうなる」
「ああ、なるほど。なんとなく理解しました」

解説はこれで終わりだと言わんばかりに赤司君が肩を竦める。言葉を噛み締めるようにほどいて行けば、僕がこの双子に感じた双子らしい行動というのはそもそもそこに起因することではなく、僕の両親にも見られるような心理的なものらしかった。
でもそうか。それならば。


「僕は今、盛大に惚気られてしまったんですね」


なまえ君と赤司君の動向は、僕が見る限りとても似ている。それはつまりお互いがお互いの好きなところを吸収しようとしているからで、イコールで二人がどれだけ想い合っているかに繋がるのだ。余りにも楽しそうに笑う赤司君が「テツヤは物分かりが良くて好きだよ」と声を弾ませるものだから、少し真面目に考えた自分の頭を呪った。
ああ、バカップルといると本当に疲れますね。




(何話してたの?)
(ちょっとした心理学の話さ)
(どこぞのバカップルがどれだけ仲良いかを教えられていました)
(え?)
(聞いてきたのはテツヤだろう?)
(そうですけど…)
(んー?…変なの)



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