小説 | ナノ
征十郎の手が俺の頬に添えられる。僅かに動いているそれが擽ったくて軽く肩を竦めれば、征十郎の目元が緩んだ。征十郎は俺と2人になったとき、どうしようもなく柔らかい表情を浮かべている、気がする。
「ふは」
「擽ったそうだね」
「そりゃあね」
征十郎のその表情が好きだった。みんなの前とは違う顔を向けられると、優越感と愛しさで思考回路が麻痺してくる。胸が締め付けられてるみたいに苦しくて、なんとなく喉が乾く。
「征十郎」
「ん?」
視線を向けて名前を呼べば、先を促すように額を合わされる。ぐっと近付いた距離にまつげ長いなと関係の無いことを考えて、それからゆっくり口を開いた。
(キスして、)