小説 | ナノ





僕の下で縮こまっているなまえの顎に手を添え、掬い上げるようにして此方を向かせる。うろうろと定まらない視線にくすりと笑えば、分かりやすいくらいびくつく身体。

「なにをそんなに怯えているんだい?なまえ」
「…っ…せ、征十郎」
「ふふ。面白いね」
「俺はちっとも面白くない、です…ね、退いて?」
「まさか、退くわけないだろう?」
「ですよねー」

何故か怒り心頭の征十郎は、その感情を隠そうともせずに晒している。一緒にお昼を食べていたはずのテツヤ達は俺が押し倒された辺りで早々にいなくなっており、どうしてこうなったと頭を抱えたくても抱える筈の手が征十郎に拘束されているせいで動かない。

「だから、涼太も一緒だし、平気だって…」
「どうして言い切れるのかな。大体、灰崎は苦手だとか言ってなかった?」
「それがさあ、ちょっと話してみたらいい奴で……って、いっ、いたたた!折れる!変な音鳴ってる…!」
「ああ、そうだな。とにかく、灰崎と出掛けるなんて賛同できないからね」
「だ、めだって、約束してるし…」
「なまえ」
「う、……あー…もう…分かった、から、手離して…!」
「うん。いい子だね」
「はあ…」

ちゅっと鼻先にキスを落として離れた征十郎に、もう一度深い溜め息を吐く。
この間、まあ100%祥吾が悪かったんだけれども、ちょっと本気で祥吾を殴ってしまったその後。流石に悪いことをしたと思って謝りに行ったところ、普通に会話を楽しんでしまい、何故か途中から合流した涼太と3人で遊びに行くことまで決定してしまった。そこまでは良かった。


「さっきの数学の問題マジ分かんなかったっス…」
「あー?オマエそんなん気にしてんのか」
「黄瀬君はほとんど寝てたでしょう。青峰くんはもう少し気にするべきです」
「あはは、今度みんなで勉強会とかするー?」
「それいーっスね!…あ、なまえっち、日曜は10時に駅前でいいっスか?」
「あ、うん。りょーかい」
「…日曜?」
「俺となまえっちとショーゴ君で遊びに行くんスよー!」
「…また不思議な組み合わせですね…」
「あはは、俺もそう思…どしたの、征十郎」
「どういうことかな、なまえ。僕は聞いてないんだが?」
「そりゃ言ってないし…?うわっ!?」
「灰崎と、何をするって?」

涼太がうっかり漏らしたその一言で、隣で本を読んでいた征十郎の表情が変わった。真顔でこちらを凝視してくる征十郎の瞳孔の開きっぷりに腰が逃げると同時に、俺の飲んでいた野菜ジュースが宙を飛ぶ。

「いっ、ちょ、征十郎、頭打ったんだけど…!」
「僕の質問に答えなよ、なまえ?」

魔王が乗り移ったんじゃないかとも思えるその笑みに、その場にいた全員が避難したのはそのすぐ後だ。ひどい。せめて誰かに野菜ジュースがぶちまけられていることを期待しつつ、手首を擦りながら起き上がって携帯を取り出す。
祥吾に謝りのメールを入れると、満足したのか征十郎が頭を撫でてきた。

「征十郎って過保護だよね」
「そうでもないさ。これはただの独占欲だ」
「…へー…」

地肌を撫でるように指を滑らせれば、気持ち良さそうに目を細めて頭を押し付けてくるなまえに思わず笑みが零れる。こんなに可愛い恋人を、せっかくの休みに手放しで遊ばせるなんて。


(そんなことを、許すとでも思ったのかな)









from 赤司弟
sub re:
添付ファイルなし
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ごめん
日曜行けなくなった
涼太と楽しんでねー





from しょーご
sub re:re:
添付ファイルなし
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はあ?
てめ、ふざけんなよ
あいつと二人でなにしろっ
てんだ





from 赤司弟
sub
添付ファイルなし
――――――――――――

バスケとか?
ごめんねー、ありがとー!





from しょーご
sub re:
添付ファイルなし
――――――――――――

ありがとってなんだテメェ
!あと電話出やがれ!






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楽しまれたなまえ君のちょっとした仕返し。かもしれない



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