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帝光時代
※本誌ネタバレ有り
※灰崎が可哀想









「……何してんの?」

征十郎に外で待つように言われたはいいものの、何やら不穏な音が聞こえてきたので扉を開ける。すると目に飛び込んできたのは祥吾が征十郎の胸倉を掴み上げている光景で、思わず首を傾げてしまった。

「なまえ…外で待ってろと言ったはずなんだが」
「あ、ごめん。で、祥吾、何してんの?」
「ああ!?うっせぇな、テメェに関係ねェよ、すっこんで…」
「え?なに?」
「ッだァ、人の話を遮るんじゃねェ!!」

目を丸くしたまま此方に近付いてくるなまえに眉を寄せる。その視線は真っ直ぐに灰崎を捉えていて、口端が僅かに上がっていた。なまえを置いて来たことは失敗だったと、思わず溜め息を吐きながら視線をずらす。

「灰崎、」
「ごめんね、ゴミが何喋ってるんだかうるさくてよく聞こえないからその汚い手を征十郎から外して地面に頭擦り付けながら土下座で会話してくれないかなオイ聞こえてんのか愚図さっさと動けっつってんだよ大体お前は何時もそうだよねこの間だって暴力沙汰起こして皆に迷惑かけて更にその前だって…」

灰崎の手首を掴んだかと思えば、そのままそれに爪を立てて息継ぎもなく言葉を紡ぎ続けるなまえは誰がどう見ても苛ついていた。灰崎はそんななまえをどこか茫然と面持ちで見詰めている。

「………なまえ、僕は何ともないから落ち着け。灰崎は手を離せ、じゃないと…」
「あああもうさっさと離せー!!」
「ふぐぉっ!?」
「………遅かったか」

恐らくなまえ渾身であろう右ストレートを見事に喰らった灰崎は僅かに飛んで床に転がっていた。こういう所を見るとなまえも男であるということを実感せずにはいられない。
僅かに乱れた制服を正してなまえの方を向けば、何故か涙目になっていた。

「なまえ、暴力行為はとてもじゃないが褒められな…」
「うっさい!俺がこいつ嫌いなの知ってるくせに!話があるなら部活帰りにでもさらっと言えばいいのに、態々二人になることないじゃん!」
「うぉぉぉギブ!ギブです赤司ィ…!!」
「ゴミが勝手に喋るな死ね!!」

灰崎の背中に飛び乗ったなまえは完全にキレていた。そのまま技をかけ首を締め上げていく姿にそろそろ危ないと思い後ろから抱き締めるように腕を回して然り気無く灰崎から引き剥がしてやる。這いつくばるようにしながら僕達から距離を置いた灰崎を見据えた。

「そういうわけだ。分かったな」
「げほっ、テメッ」
「はーなーせー!征十郎!」
「ダメだよ、離さないからね。灰崎、分かっても分かってなくても取り合えず席を外してくれるかな」
「赤司弟…!テメェ覚えてろよ!!」
「なに負け犬の台詞吐いてんだよばーか!」
「なまえ、本当に落ち着け」

情けない台詞を吐いて去っていった灰崎を確認して、忙しなく動いているなまえの心臓に手を置く。そのまま力を入れればなまえの抵抗が一瞬緩まった。

「…っは…」
「ほら、力抜いて。水でも飲むかい?」
「っ、征十郎!」
「いいから頭を冷やせ。そんなに大声ばかり出すな」
「いっ、や、だ…!もう、心配した、のに!」
「分かってるよ。でも、僕があれに負けるとでも?」
「触られてたじゃん…!」
「やらせていただけだ。なまえがそんなに興奮するとは思わなかったけどね」

正面から抱き直してやや強めに額を打ち付け合わせる。未だに騒がしい心臓がドクドクと脈打っているのがよく分かって、流石に心配になってくる。なまえは普段大人しい側に分類される人間だから、こうなるのは酷く珍しい。僕でさえ久々に見るほどに。

「なまえ」
「…征十郎のあほ」
「っ…こら」

なまえの目尻に溜まった涙を拭おうと顔を離した途端、肩に噛み付かれる。次いで鎖骨にもシャツ越しに歯を立ててきた。一体どうしたというのか。

「征十郎、征十郎」
「……参ったね」

ぼろぼろと泣きながら跨がってくるなまえに、堪えきれず浮かんできた笑みが見つからないよう祈った。




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わざと灰崎をけしかけて夢主の反応を楽しむ征十郎君のお話
本当にすまなかった



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