5.賑やかな夜へ連れ出して



7月の期末テストが終わり、長かった部活休止期間も明けた。黒尾や夜久くんは部活が始まって、とても嬉しそうだけど、研磨は少しだけ気だるそうにしている。夏は暑いから嫌いっていってたから、それもあるのだろう。私は対照的な三人を尻目に荷物を抱え直した。

今日からついに黒尾が話していた梟谷学園との合同合宿が始まる。毎回場所は持ち回りで開催しているみたいで、今回は梟谷学園で合宿を行うらしい。私は先頭を切って歩く黒尾の後に続いて体育館に入った。

「へいへいへーい!黒尾!やぁっと来たなー!今日もスパイク決めてやるぜー。」

体育館に入ると、突然の大声に足を止めてしまった。黒尾も驚いたようでびくりと肩を揺らしている。恐る恐る黒尾の背後から声をかけてきたであろう人物を覗き込むと、背の高い男の子が元気そうに大笑いをしていた。

「喧しい梟だな。今日もスパイク止めて、うるせー口を黙らせてやる。」
「できるもんならやってみろー!」

なんというか、すごく明るそうな人だ。ワハハというか、ガハハというような勢いで大口を開けて笑い、体育館の真ん中に仁王立ちしている。黒尾の影に隠れて二人の様子を窺っていると、大きな目とばっちり視線があった。私は慌てて会釈を返す。経験上、こういう時は大体挨拶をしておけば間違いない。

「お、その子は初めて見るな!?新しいマネージャーか!?アカーシ、同い年じゃねえの?!やったな!」

そう言うと、明るい男の子は隣に控えていた真面目そうな男の子の背中をバシバシ叩いた。すごい。隣の男の子、あんなに強く叩かれてるのに、全く動じていない。

「まだ何も言ってねぇよ。てか、ナマエは俺らと同じ学年だ。今年からマネージャーとして入ってくれてる。」

黒尾が呆れたように明るい男の子に声をかけた。

「なんだー。同学年じゃねーって、残念だったなアカーシ。」
「木兎さん、俺もまだ一言もしゃべってませんけど。」
「そっちは梟谷の新しい一年か?」
「おう!期待の新人ルーキーだ!」

木兎さんと呼ばれた彼が、隣の真面目そうな男の子を誇らしげに紹介した。しかし、当の本人は微塵も感情の起伏を見せずに淡々と挨拶を始めた。

「1年の赤葦京治です。よろしくお願いします。」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。2年のミョウジナマエです。」
「同じく2年の黒尾鉄郎です。」

私と黒尾は赤葦くんの雰囲気に釣られて丁寧に自己紹介をする。

「おいおい、堅いぞアカーシ。な!ナマエっち!」
「え、ナマエっちって、私のこと?」
「お前のことだな。多分。」
「木兎さんがすみません。」
「あ、いえいえ。とんでもないです。仲良くしていただけて嬉しいです。」

赤葦くんが保護者のようにぺこりと私に謝罪をする。なんて良い子なの。恐らく流れから見るに、赤葦くんはボクトくんよりも年上だろうに、彼をフォローするような発言をした。何となく苦労人なのだろうなと察してしまい、労ってしまいたくなる気持ちになった。

「それよりも、木兎。ナマエは今回初めて合宿に参加するから、お前のとこのマネ紹介してやってくんねーか。」
「おー、そうだな。ゆきっぺー!ちょっと来てー!」
「何よー木兎。こっちは合宿の準備してんのに。」

私はドキッとして心臓を抑える。自分はものすごく人見知りって方じゃないと思うけど、初めての空間で、初めて会う人ばかりに囲まれるのは流石に緊張する。
木兎くんに呼びかけられて傍に来た子は、面倒臭そうな顔で木兎くんの呼びかけに応じていた。あ、なんだか私のせいでごめんなさいって気持ちになる。しかも、すごい可愛い子だ……!

「この子、ナマエっち!俺らと同い年でマネだってー。ゆきっぺヨロシクな。」
「え、何。どゆこと。」
「音駒高校の新しいマネージャーの方だそうです。今回、初めて合宿来たみたいなので、色々教えてほしいそうです。」
「あ、そういうこと。それで、私と同い年ってことだよね?よろしくねー。ナマエっちー。」
「はい、よろしくお願いします!ゆきさん!」

私はフレンドリーな美女に緊張して背筋を正して挨拶する。隣から黒尾の「なんだコイツ」みたいな視線を感じるけど気づかないことにする。

「あはは、何で敬語。タメだし普通でいいよ。それより飲み物作れる場所とか教えるね。着いてきてー。」
「あ、うん。ありがとう。」

そのあと、ゆきちゃんに梟谷のもう一人のマネージャーのかおりちゃんを紹介してもらい、給水所や洗い場を教えてもらった。音駒高校は歴史も古く公立高校なので、設備が少し古いけど梟谷は設備も施設も立派で感動した。他校の中って見ることないから、すごい新鮮。

一通り梟谷の施設について教えてもらったら、一緒にドリンクの準備をしてビブスを選手たちに配った。研磨はいつも通りの雰囲気だけど、山本くんと福永くんは初めての梟谷での練習に少しソワソワしているようだった。

「あのー、すみません。誰か梟谷と音駒の得点板つけるの手伝ってもらえませんか?」
「あ、私やります。」

ドリンクの準備も一通りできて手が空いたので、得点板を付けるのを申し出る。研磨は得点板の係は常に立っていなきゃいけないから、嫌いだって言ってたけど、私は身近に皆の様子を観れるから結構好きだ。

笛の音と共に試合が始まると、梟谷の3番の子からサーブが打たれた。強烈なボールが放たれて音駒のコートに向かっていくけど、夜久くんが直ぐに反応してボールを上げた。少しボールを上げる位置が乱れて、夜久くんが悔しそうに顔を歪めたけど、あんな強烈なサーブ十分上にあげるだけで凄いようにみえる。研磨がボールの落下点近くまで移動をするとアンダーで福永くんに上げた。福永くんは綺麗にブロックの合間をぬってクロスを打つ。しかし、今度は梟谷のリベロが綺麗にボールを返した。Aパスでセッターの赤葦くんに返されたパスは木兎くんにドンピシャで上げられた。木兎くんはギラギラした瞳でスパイクを打つ。強烈なストレートだった。後ろに控えていた山本くんがアンダーレシーブで触るものの、ボールは凄い音をしてコートの外へ飛んでった。素人の私でさえ分かるほど強烈なスパイクだった。

「……すごい。」

つい言葉が漏れる。私はハッとして口を抑える。しかし、そばに居た木兎くんには聞こえてたようで、嬉しそうな表情が此方を見ていた。

「おーう!そうだろう!俺のスパイクはブロックも弾き飛ばすぞー!」

余りにも裏表も嫌味も感じさせないストレートな言葉に笑いが漏れてしまう。

「そうだね。びっくりした。」
「へいへーい!ナマエっち!もっと見ててくれよー!」
「うん。こっから見てるね。」
「親と子か。」

私と木兎くんのやり取りに反対のネットの側にいた黒尾がつっこむ。そういいつつも、黒尾も笑っているあたり木兎くんのプレーに少なからず感化されているみたいだ。

木兎くんは出会った時から元気な人だと思ったけど、バレー中も元気な様子は変わらず梟谷だけでなくコート全体の雰囲気が引き上げられるように感じた。山本くんは比較的、最初の場面は緊張から硬いプレーになることが多いのだが、今日は初っ端からメラメラと闘争心をもやしてスパイクを決めている。これも、木兎くんの真っ直ぐで素晴らしいプレーを見て、という要因が少なからずあるだろう。調子の良い山本くんはいつもよりも強烈なスパイクを放つ。
しかし、山本くんの雰囲気に梟谷のレシーバーやブロッカーの指揮が高まっているところを見計らって、研磨が絶妙にツーアタックを決めた。相変わらず研磨は研磨で相手コートを冷静に見ているなと思った。研磨は何事にも俯瞰して見ることが多いので、メンタル面を誰かに影響されるということはない気がする。この一年生二人もまた対照的なんだよな。そのせいもあってか、二人は打ち解けていないようで、チームとしては磨かなくてはいけない要素はまだまだ多いようだ。

試合は一セット目は梟谷にとられ、二セット目は音駒が取り返して同点に持ち込んだものの、三セット目は惜しくも梟谷に取り返されてしまった。

試合が終わると負けたチームにはペナルティがあるようで、体育館をフライングで一周しなくてはいけないらしい。皆、凄く悔しそうで次こそは頑張れと、私はフライングが終わった選手達にドリンクを配った。

試合は総当たり戦のような形で、生川高校と森然高校ともそれぞれに試合をやった。お昼休憩をとった後も、もう一度総当たり戦を行ったので、試合続きでどの選手もとてもキツそうだった。

夕方になると、ゆきちゃんとかおりちゃんが夕ご飯の支度をすると言っていたので、私も手伝いを申し出て一緒に食堂に向かう。かおりちゃんから、ゆきちゃんは食べることが大好きと聞いていたけど、味見とは思えないほど沢山の量を食べていて笑ってしまった。

「やっぱり学校で食べるカレーって美味しいよね。」
「あー、それわかる。特別変わったレシピとかじゃないはずだけど、何でだろうね。」
「ちょっとゆき!そろそろ食べ過ぎだから!」
「あと一皿だけー。」
「いや、そこはせめて一口だけとかにしといて!」

夕ご飯の時間になると、練習が終わりゾロゾロと選手たちがやってきた。私はそれぞれのテーブルにサラダを置いていく。暫くすると、研磨と福永くんが入ってきたので、二人にもサラダを持って行った。

「おつかれ。試合続きで大変そうだったね。」
「大変なんてもんじゃないよ。早く布団に入りたい。」

研磨がぐったりとした様子でレタスを頬張る。食欲はまだあるみたいだったので、微笑ましく研磨と福永くんの食事の様子を見守った。

「あれ、そういえば黒尾達は?」
「まだ自主練するって。梟谷の木兎サンに捕まってた。」
「えっそうなの。あと1時間後には食堂片付けなきゃいけないみたいだから、私呼んでくるよ。」
「うん。ナマエも食べ損ねないようにね。」

そう言うと研磨が気怠そうに手を振りながら、隣では福永くんが親指を突き出して頑張れというように合図を送っていた。私は二人にグッドサインを返すとゆきちゃんとかおりちゃんに声をかけてから、体育館の自主練組の元に向かった。

体育館の入り口から顔を覗かせると黒尾と夜久くんと山本くん。それから、梟谷の木兎くんと赤葦くんと───確か梟谷のミドルブロッカーの子の六人で三対三をしているみたいだった。ちょうど木兎くんがスパイクを決めて、そのボールを山本くんが弾いたところに、私めがけてボールが飛んできた。流石に数ヶ月バレー部いると、その流れ弾にも慣れてきて、顔面でキスする前に両手でキャッチをした。

「おーう!ナマエっち、ナイス反射神経。」
「育ったなー、ナマエ。」
「あ!す、スンマセン!!ナマエさん!!」

上から木兎くん、黒尾、山本くんが此方に声をかける。黒尾の偉そうな顔にイラッとしたので、彼の顔面目掛けてボールを投げた。しかし、残念ながら超絶反射神経でキャッチされたので攻撃することはできなかった。私はコッソリと心の中で舌打ちをする。

「そろそろ、練習切り上げないと食堂閉まっちゃうよ。」
「おー、まじか。じゃあ、こんぐらいにして切り上げるか。」

黒尾の言葉を皮切りに皆が片付けを始めたので、私も体育館にモップをかけてから電気を消す。

最後に皆が体育館を出たところで鍵を閉めていると、山本くんと赤葦くんがジッと此方をみていた。

「ん?どうしたの。二人とも食堂行かないの?」
「そ、その!!鍵、俺たちが閉まってくるんで!ナマエさんは先に帰って大丈夫です!!」
「俺、鍵の場所分かるので、山本と一緒に行ってきます。」

熱血な山本くんとクールそうな赤葦くんは対極そうだが、先輩に対する真面目で律儀なところは気が合うところがあるらしく、微笑ましい気持ちで二人が並んでいるのをみた。研磨と山本くんは、まだ仲良くなれていないみたいだけど、他校で仲良くなった子ができたみたいで良かった。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。もともと先生に鍵閉めのお願いされてたの私だし。二人は今日いっぱい試合して、明日も頑張らなきゃいけないんだから、食堂でご飯食べてゆっくり休んで。そうしてくれた方が私は嬉しいから。」
「エッアッナマエさん!!その!!」
「うん。おつかれ。山本くん、いつもに増して今日は調子良さそうでカッコよかったよ。」
「ウハッ!!」

山本くんが奇声をあげて固まるのは、いつもの事だったので、山本くんに福永くんがしたみたいにグーサインを送った。白目を向いているので見えているかは分からないけど。赤葦くんは変わらずクールな様子で「鍵、ありがとうございます。」と会釈をしたので、私も彼に倣って会釈してから体育館を後にした。

鍵を職員室に戻してから食堂に行くと、殆ど生徒がいなくなっていて、ゆきちゃんとかおりちゃんが片付けを始めていた。

「あ、ナマエっち来たー。鍵閉めまでしてくれたんだってね。ありがとうね。ほとんど片付けたから一緒にご飯食べて、お皿洗ったら、お風呂行こ。」
「こっちこそ片付けありがと。」
「ちょ、ゆき、まだ食べれるの?」
「え?さっきのは味見だったし。」

三人でワイワイとご飯を食べてから片付けを終えると、今度は生川高校と森然高校のマネちゃんとも合流してお風呂に入った。皆いい子で少しずつ打ち解けられてホッとした。二十時位を過ぎたところで、少し喉が渇いたので皆に断って下の自販機まで歩く。さっきまで人が沢山いて賑わっていた廊下も今は人がいなくて寂しそうに見えた。私は渡り廊下にあった自販機でコーヒー牛乳のパックを買うと、ストローをパックにさしながらボンヤリとグラウンドの方を見た。いろんな施設や設備は新しくて、音駒と全然違うなって思ったけど、グラウンドはどこの学校も似てる不思議。

「おつかれ。」

油断していたところに後ろから声をかけられて、私は飛び上がって声にならない声を上げた。さっきまで廊下に人が居なくて寂しいなとか思ってたから、余計にびっくりした。聞き慣れた声にゆっくりと振り返ると申し訳なさそうにコチラを見てる研磨と目があった。

「け、研磨。」
「ごめん。びっくりさせるつもりはなかった。」
「いやいや、私が完全に油断してたから。」

研磨は私の後ろにあった自販機でパックのココアを買うとストローをいそいそとさしていた。なんか男子高校生がココア飲むのかわいい。声に出したら嫌そうな顔されそうなので心の中で思っておく。

「はー、なんか数年ぶりに研磨に会った感じがする。」
「大袈裟。」

ここでココアを飲むってことは、少なからず二人きりが気まずいと思ってないみたいだったので話しかけてみる。返事は淡々としているが、いつも通りの彼のテンションに少しホッとする。

「……なんか、ナマエ疲れてる?」
「え、そうかな。」
「いつもよりボーッとしてるように見えたから。」
「嘘、そんなに顔に出てた!?」
「まあ、初対面の人とかクロは鈍感だから気付かないと思うけど。」
「安心していいのか微妙だなー、それ。」

研磨の回答に苦笑する。それにしても、自分でも気づいてないことを人に気づかれるなんて、少し気恥ずかしい。研磨は本当に周りの事をよく見てるんだな。

「選手じゃない私が疲れるなんておかしいよね。」
苦し紛れに頭をかきながらおどけてみる。

「別に。そんなことないんじゃない。ナマエは今回マネジャーとして初めて合宿来てるわけだし、知り合いもまだ少ないでしょ。部屋では他校の人しかいないだろうし。」
「あ、うん。確かにそうだね。」
「知らない人ばっかりの空間って疲れるよね。……ナマエは違うかもしれないけど、俺はそうだから、何となくそう思った。」

研磨の私を気遣う言葉に胸がギュッと掴まれる。なんて可愛い年下。普段は塩対応なのに、こっちが疲れてる時に飴をこんなに与えてくれるなんて。

「研磨ぁー!優しいなーもう!」

私はついつい研磨の頭を撫でた。普段素気ない猫が寄り添ってきてくれたみたいで、私の気疲れは一気に吹っ飛んだ。研磨の髪は猫みたいに柔らかくてサラサラだった。

「ちょっとやめて。頭触らないで。」
「ごめん、ごめん。ついね。でも、研磨と話したおかげで元気出たよ。」
「俺は別に。何もしてないよ。」

研磨が本当に嫌そうだったので、速やかに頭を撫でるのをやめて距離を取った。流石に触るようなコミュニケーションはやり過ぎだったらしい。次からはしっかり自制しなきゃ。

「よし、私明日も皆のサポート出来る様に頑張る!」
「うん。ほどほどにね。」
「研磨もこの後ゲームするんだろうけど、ほどほどにね。」
「……。」
「コラ、そこ無言にならない。」

先日と同じようなやり取りに、研磨と私は顔を見合わせて笑った。研磨は声を上げて大笑いする事はないけど、意外と良く笑うのだ。

「おや?見慣れた顔が二つ。こんなとこで何やってるのかなー。」

胡散臭そうな声が聞こえるなと思って顔を横に向けると、見覚えのないシルエットが立っていた。

「クロ。」
「え、マジで?髪型違いすぎて誰か分かんなかった。」

黒尾の髪型はアイデンティティのトサカが消えてぺっしょりと収まってしまっていた。どうやら、研磨は黒尾のアイデンティティが無くなっても見分ける事が出来るらしい。さすが幼馴染だ。

「何だ?俺がイケメンすぎて誰か分からなかったのかナマエチャン。」
「自意識過剰、傲慢野郎。」
「おい、思い付く限りの漢字で俺を貶すのを辞めろ。」
「ごめん。それを望んでるのかと思って。てゆうか、気になってたんだけど、いつもの髪型って毎日セットしてんの?」
「クロのあれは寝癖だよ。」
「いや、どんな寝癖よ。すごいね。」
「俺、寝相良い方でよかった。」
「研磨は髪サラサラだし、トサカになることは無いんじゃない?」
「サラッと弄るのも傷付きますから!」

気付けばいつもの帰り道と同じ雰囲気になっていて話が弾んでしまった。携帯で時間を確認すると三十分くらい経っていたので、そろそろ帰らなきゃなと研磨の紙パックも回収してゴミ箱に捨てる。

「じゃあ、明日も頑張ってね。二人とも。」
「明日も頑張ろうねだろ。ナマエも色々やってくれてんだから。猫又監督もナマエの動き褒めてたぞ。」

私の言葉に黒尾がサラリと労わるような言葉をくれる。私は驚いて黒尾を見返した。

「え、俺なんか変なこと言った?」
「───いや、なんか。はは、私音駒のマネージャーで良かったよ。」

照れを隠すように私は口元を抑えながら笑った。黒尾は理解できませんって顔で不思議そうに頭を傾げていた。

「うん。明日も頑張ろうね、二人とも。」
「おう。」

黒尾が楽しそうに私の言葉に相槌を打ち、研磨も空気を読むように嫌々ながら頷いていた。先程まで、人が居なくて寂しそうに感じていた廊下は、いつの間にか居心地の良い空間に変わっていた。

20220919
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