マイキーさんにドラケンさんが入院している事を聞いたのでお見舞いの品を持って病院へ来た。訪問する病室を告げると看護師が少し驚いたような反応をして場所を案内してくれた。私はその反応に小首をかしげて病室の扉を開けた。そして、数秒後にその意味を理解をする。

扉を開けると入る場所を間違えたかと思うほど、ガラの悪い男達が病室を埋め尽くしていた。私は反射的に一言も発することもなく扉を閉じた。
え、何?私来るとこ間違えた?ここ病院だよね?病室の標識を見直すが龍宮寺堅の名前が刻まれている。

「おい!なんだテメーは!」
「ぎゃあああ」

途端に病室の扉が開かれて身長が180センチは有りそうな明らかに柄の悪い男が出てきた。私はあられも無く叫び声をあげる。

「オイ、ぺーやん。病室で叫んでんじゃねぇよ。迷惑だろ」
「あぁ!?叫んだのは目の前のこの女だろ!」

奥から銀髪の怖そうな人が彼を咎める。この人、眉毛の真ん中がない……!こっちも不良だ。怖。
私は青ざめて不良二人を前に身体を震わせる。

「あれ、ナマエじゃん。良くドラケンくんが入院してるの知ってたな」

怖い不良の二人組の間から見慣れた顔がひょいと出てきた。千冬くんだ。私は慌てて千冬くんの背後に隠れる。その側には場地さんも控えていた。今日も機嫌が悪そうだ。

「おう、ナマエ。よくここが分かったな」

ドラケンさんがヒラヒラと私へ手を振る。

「お元気そうで良かったです。マイキーさんに聞いて心配していました。これお見舞いです。元気になったら食べてくださいね。それでは」

私はお見舞いの品を渡して足早に立ち去ろうとしたが、ドラケンさんに腕を掴まれた。

「ありがとな。ま、ゆっくりしてけよ」
「い、いえ。ドラケンさんの元気そうなお顔も見れたので満足です」

押し問答をしていると扉が開いて今度はマイキーさんとエマちゃんが入ってきた。この部屋に不良がさらに増えた。ますます私は居心地が悪くなる。

「あ、ナマエ。場所わかったんだ」

マイキーさんは私に声をかけるとドラケンさんの側に立った。

「ケンチン、体調は大丈夫?」
「おう、大丈夫だ」

ドラケンさんとマイキーさんが談笑を始める。私は今のうちにコソコソと出口に向かおうと忍び足で扉まで歩いた。

「それより、コイツだれだ?」
「ヒィッ」

先程ガンを飛ばしてきたガラの悪い男が、私の行手を阻むかのように顔を覗き込んでくる。皆んなの視線を集めている気がして私は咄嗟に近くにいた千冬くんの後ろに隠れた。

「こいつは俺の彼女!」

そんな抵抗も虚しく、マイキーさんが私の肩を掴んで引き寄せた。私は全力で首を横に振る。

「首が千切れそうなくらい横に振ってるけど」

銀髪のお兄さんが苦笑いでこちらを見ている。
収集がつかなくなっている状況にドラケンさんがため息をついて説明を始めた。

「ナマエはコンビニの店員だ。マイキーは道端でアイスをぶっかけられてから、ナマエの事気に入ってんだ」
「その説明を聞いてもイマイチ訳わかんねぇけど。とりあえず二人と千冬とは顔見知りなんだな」
「まあ、そんなとこ。場地の家の近くのコンビニで働いてんだよ」
「あー、あそこか?前に行ったことあるかも」

銀髪のお兄さんとドラケンさんが私を差し置いて話をする。堂々と目の前で個人情報が流出しているが、怖い人が多すぎて制止することができない。バイト先にさらに不良の常連が増えたらどうしよ。一般人がもう来なくなるよ。

「俺は三ツ谷って言うんだ。よろしくな。ナマエって言うんだっけ?」
「初めまして。名前に相違ございません。よろしくお願いします」
「挨拶かたいな」

三ツ谷さんが苦笑する。

「さっきのガンつけてきたのがぺーやんで俺の後ろにいるのが八戒だ」
「ご丁寧にありがとうございます」

私は軽くお辞儀をした。マイキーさんは相変わらず私の肩に手を置いているが重いので退かしてほしい。口に出す事は出来ないので、心の中で悪態をついた。

「お前ら先に言っとくけどナマエに手を出したらダメだからな!」

マイキーさんが子供みたいに頬を膨らませて言う。きっと頼まれても三ツ谷さんも誰も私には興味を持たないだろう。私を好きなんて言うのは物好きのマイキーさんくらいだ。
三ツ谷さんはマイキーさんの扱いに慣れてるのか笑いながら私達を見ている。雰囲気がちょっとドラケンさんに似てる。兄貴肌な人なのかもしれない。



その後、誰が持ち寄ったのか分からないがババ抜き大会が始まった。私は帰るタイミングを完全に失って、端っこの方でわちゃわちゃしているマイキーさん達を見る。初めの頃こそ、彼らが中学生とはとても思えなかったけど、こうやって遊んでいる姿は年相応に思えた。彼らのお陰で怖い思いは沢山してるけど、真っ直ぐなところとか、たまに見せる純粋で子供っぽいところを知ると憎むことが出来なくなる。

「うるさいよな。あいつら」

遠巻きに皆んなを見ていると三ツ谷さんが気を遣ってか話しかけてくれた。やっぱり彼は面倒見の良いタイプなのだろう。

「こういう姿みてると中学生だったんだって安心しますよ」

思っている事をそのままに伝えた。私の答えに三ツ谷さんは可笑しそうに笑う。

「ナマエちゃん、いくつなの?」
「今年で16歳になります」
「げ、もしかして。年上?ごめん。アイツらが普通にしてるからタメかと思って……ました」

三ツ谷さんが気まずそうに視線を彷徨わせる。遠慮なくタメ口で話す子が多かったので、その反応が新鮮に感じた。

「あはは、律儀ですね。気を遣わないでください。私は敬語の方が話しやすいんですけど、タメで話しかけてくれるのは全然気になりませんよ」
「そう?ならそうさせてもらおっかな」
「はい、大丈夫です」
「いつもマイキーが迷惑かけてない?アイツ我儘だから強引に連れ回してないか心配でさ」
「お、お察しの通りです。よくお分かりですね」
「アイツとは昔からの付き合いだからね」
「なるほど」
「でも、女の人に執着してるのは初めて見たかもな。一体、ナマエさんはどうやってマイキーを落としたんだ?」
「お、落とした?全然そんなつもりは無いのですが、本当に分からなくて、私が知りたいくらいです」

私が頭を抱えると三ツ谷さんが苦笑する。

「無理にとは言わないんだけどさ、仲良くしてやって貰えると嬉しいな」
「三ツ谷さん」
「マイキーがあんなに嬉しそうに人を紹介するって事は、ナマエさんに結構心を許してるんだと思うんだよね。なんか珍しくてさ」

私は返答に困り、「あー」とも「うー」とも言葉にならない呻き声を上げた。誰かに心を許されてるなんて言われたことがないせいか、気恥ずかしくなり頬が熱かった。
不意に目の前が真っ暗になり石鹸の香りが私を包む。

「三ツ谷、何ナマエのこと口説いてんだよ」
「は、口説いてねぇよ」
「ナマエの顔が赤かった。手を出すなって言ったよな?」

どうやら、この石鹸の香りはマイキーさんに抱えられてるらしい。温かい体温が伝わってきて余計に私の顔は熱くなった。

「違ぇよ。マイキーの話したら赤くなっただけだよ」
「は?」
「三ツ谷さん、その言い方は語弊があるので辞めてください」

マイキーさんが私の顔を覗き込む。私の表情を見ると彼は一瞬キョトンとしたあと、とても嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「三ツ谷、この表情は俺だけのだ」
「ジャイアンかよ」

三ツ谷さんが呆れたように言う。マイキーさんの身体で周りが見えないが、持て囃すような声が聞こえてきた。
私は早く顔の熱が冷めるようにと頭の奥で祈りながら、解放されたらどう逃げ帰るか考えるのだった。

We love without reason, and without reason we hate.
(私達は、何らの理由もないのに、人を愛し、また、何らの理由もないのに、人を憎む。)


20210613
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