小学校6年の時、通知表の先生からのコメント欄にはこのように書いてあった。素直で真面目で良い子ですが、トラブルに巻き込まれてしまうタチのようだと。

「も、申し訳ございません!」
「あーあ、派手にやってくれたな、お姉さん」
「ヒィッ誠に申し訳ございません!」

普通であれば関わることはないであろう人達だった。一人は金髪で前髪を後ろにくくっていて小柄だが迫力のある無表情な少年、もう一人は180センチメートルは超えているだろう高身長に金髪を弁髪にしたお兄さん。
そんな方々へ、私は頭が地面につくのではないかというくらい腰をまげて謝っている。

「こりゃーシミになるかもな」
「弁償させていただきます!」
「だとよ、どーするマイキー」

弁髪頭のお兄さんが小柄なお兄さんに問いかける。小柄のお兄さんは依然として表情をピクリとも動かさない。
怖い!怖いよ!!!私小指詰められる!?ケジメつけられちゃうの!?

元凶は私の目覚まし時計が壊れたことから始まった。起きた頃には出勤30分前で、完全に寝坊をしてバイト先まで慌てて走った。それからいつもの不運体質を発揮して、曲がり角にいた小柄なお兄さんにぶつかりお兄さんが持っていたチョコレートアイスクリームを盛大に白いTシャツにぶちまけてしまった。後は現在に至る。

「あー、別にいいよ。弁償なんて」
「え、いいんですか?!」

お兄さん意外と優しかった。明らかに堅気の兄さんじゃないと思っていたけど、訂正させて戴きます。

「そのかわり、お願いしたい事があるんだけどいいかな」

小柄なお兄さんが笑顔で詰め寄ってきた。私はじわりと背中にいやな汗を描くのがわかった。
人身売買、もしくは白い粉の運び屋か、はたまたどこかの店にぶち込まれるのかもしれない。

「ヒィッあっあの、私にできる事であれば良いのですが!そんなに価値の高い人間ではありません!」
「そんなにビビらなくても大丈夫だよ?簡単なお仕事だから」
「カンタンナ、オシゴト!?」

金髪のお兄さん二人組はにやりと嫌な笑みを浮かべていた。あぁ、私の人生終わったかもしれない。

「また今度連絡するから携帯番号教えてよ」
「!?!?ケイタイバンゴー!?」
「そう、持ってるでしょ?」
「モ、モッテタカナー」
「嘘ついたら分かるからね」
「嘘なんて滅相もございません!お納めください」

私は光の速さで携帯を差し出した。
お兄さんは携帯を受け取ると番号を確認して、私の携帯へ着信をかけた。悪魔のバイブレーションが携帯からこだまする。

「はい、終わり。今度連絡するから、ちゃんと出てね?」
「……はい」
「間があったけど大丈夫?心配だなあ。なんならお姉さんの家の住所」「3コール以内にお電話に出させていただきます!」

震える手でお兄さんからの携帯を受け取る。お兄さんコエエ。

「俺の名前はマイキーね」
「ま、マイキー様」
「ところでお姉さん急いでたんじゃないの?」
「あ、そうでした。バイトがあるので、こちらで失礼いたします!」

もう遅刻決定だ……。ついてない。私は後ろを振り返らずに駆け出した。



「遅刻して申し訳ございませんでした」
「もーこまるよ。ミョウジちゃん。いつもの真面目さに免じて許すけどね!次からは気をつけてね!」
「はい、ありがとうございます!」

店長に平謝りをして遅刻の件はことをなきを得た。だけど、怖いお兄さんに携帯番号知られてしまった。
私がどんよりとしているとレジから牛乳がひょっこりとでてきた。見下ろすと見慣れた顔がいた。

「ナオトくん。お買い物か。えらいね〜」
「何お姉さんヅラしてるの?そんなに年変わんないでしょ」
「相変わらず毒舌だね」 

目の前の毒舌少年は近所のナオトくんである。よくお使いを頼まれるそうで顔見知りとなった。可愛さに似合わず、いつも心に刺さる言葉を投げかけてくる。

「お会計250円になります。お預かりが500円で、お釣りが250円です。いつも有難うね」

お釣りを差し出すと、ナオトくんはじっと私の顔を見つめながらうけとった。そんなに可愛い顔で見つめられるとお姉さん照れちゃうな。

「お姉さん、何かあったの?」
「え?」
「悩んだ顔してるから」
「な、ナオトくん…!」

私は感激のあまり彼の頭を撫でた。

「優しいね〜。ありがとうね〜。ふふふ」

ナオトくんは鬱陶しそうに私の手を払った。眉間には深い皺がふたつ並んでいる。相当嫌だったようだ。そんなに全力で嫌な顔しなくても。

「で?どうしたの?」
「あ〜、えっと」

悪いお兄さんに絡まれたなんてカッコ悪くていえない。それに変に心配かけちゃうと嫌だしな。

「学校でテストの点が悪かったんだよ」
「なんだバカなだけか。心配して損した」
「ひっひどい!」
「僕が勉強教えてあげようか?」
「小学生じゃ解けない問題だよ!」
「貴女よりは頭いい自信がある」
「辛辣!そんな事言って優しいのはわかってるからね!」

ナオトくんの頬を掴むと私の手を叩いて舌をべっと突きだした。

「バーカ!でも、また来てあげる!」

ナオトくんはそう言って駆け出して行った。小学生は元気だな。私は微笑んで彼の背を見送った。
少し元気をもらえた気がする。


You can’t get away from yourself by moving from one place to another.
(旅はどこにでも行く事ができるが、自分の人生からは逃げる事ができない)


20210512
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