「いらっしゃいま……こ、こんにちは」
「おう」

ガラの悪い高校生が入ってきたかと思えばドラケンさんだった。後ろにはマイキーさんが眠そうに目を擦りながら入ってきた。どうやら律儀に昨日の約束を果たしにきてくれたようだ。

いつも楽しそうに私をいじって(いじめて)くるマイキーさんだが、今日は眠そうに目を擦っていて、どうやら機嫌はあまり良くなさそうだ。機嫌を損ねないようにしないと。

このコンビは一見すると、ドラケンさんの方が怖そうに見える。しかし、彼はマイキーさんのお世話を焼く良心の塊みたいな人だと最近知った。
逆にマイキーさんはワレモノ並みに取扱いに注意が必要だ。とっっっても俺様なので意向に沿わない事があると不穏な空気をだすことがある。その時のマイナス0度の冷え切った空気は本当に肝が冷える。

「昨日はありがとな。マイキーの体操服を受け取りに来た」

ドラケンさんが先に口を開く。

「こちらこそ、体操服貸してくださって有難うございました」

私は用意して置いておいた紙袋を出す。昨日の夜に慌てて洗濯と乾燥機を掛けて紙袋にしまっておいた。間に合ってよかった。今日は寝坊してしまったので危うく忘れるところだった。
私が恐る恐る紙袋を差し出すと、マイキーさんは気だるそうに紙袋を受け取った。

「どら焼きある?」

マイキーさんが寝ぼけまなこで私に話しかける。

「あ、どら焼きですか?こっちの棚にあった筈です。」

そう言いながらパンのコーナーへ二人を案内する。
しかし、棚を見て私は絶望した。出来る事なら今からバックヤードに逃げ帰りたい。

「す、すみません。品切れ中みたいです」
「あ?」

マイキーさんが明らかに機嫌を悪くした。後ろに能面が見える。あれ、デジャブ。なんでこの役回り私ばかりなのかな。
こんな時、前のようにどら焼きを持っていれば。……あ!

そういえば、昼休みに隣の女の子に京都土産で和菓子をもらったんだった。なんか有名な店だそうで、栗の形をしたパン皮に、栗が練り込まれた餡子が入ってるらしい。それはもう、ほぼどら焼きでしょ(投げやり)

「ちょっとお待ちを!」

私は風のようにバックヤードへ戻るとお土産で貰った和菓子をマイキーさんに渡した。マイキーさんは途端に目を輝かせて和菓子を食べ始めた。なんか食べ物を食べてる時は小動物みたいだ。

「おい、マイキー会計する前に食うなよ。悪い、ナマエちゃん。コレいくらだ?」

ドラケンさんが代わりに財布を開く。とことん優しい人だ。

「あ、お代は大丈夫です。これお土産で貰ったものなので」
「そうなのか?なんか悪いな」

ドラケンさんがバツ悪そうに頭をかく。一方のマイキーさんは和菓子に夢中のようだ。本当に対照的な二人だな。この二人どうやって仲良くなったんだろ。聞いてみたいと思うほど興味は無いけどぼんやりと思った。

「好きな食べ物あるか?」
「え!いいですよ。本当に気にしないでください」
「そう言うわけにはいかねぇよ。何か礼させてくれ」
「じゃ、じゃあジャガリ男のサラダ味ですかね」
「ん」

そういうとドラケンさんはジャガリ男とイチゴミルクを買ってくれた。初めてあった時、ドラケンさんのことカタギじゃないって思っててすみませんでした。心の底で謝罪した。口に出したら絶対しばかれるからね。

無事、私の命が助かった所で店長に事情を話してどら焼きも取り置きするルールができた。その時の話を聞く店長の表情は、本当に気の毒そうに私を見つめていた。本当アンタ代わってくれよ、この役目。

***

俺たちはコンビニを後にしたのち、いつもの集会場にきていた。マイキーはナマエちゃんから受け取った紙袋の中をじっと見つめていた。神妙な顔して何考えてんだ?

「どうした、マイキー」

マイキーが俺の方に目を向けると、何も言わずに紙袋から何かを取り出した。白色の布切れ?

「これ、どういう意味だと思う?」

マイキーが真顔でその布を広げるとパンツだった。レースが付いた明らかに女モノのやつだ。
マイキーのものでは無いのは明らかなので、持ち主は紙袋を渡した当人の物だろう。アイツの態度からしてマイキーに何か特別な感情を抱いてるとは思えないし、いつものドジを踏んだんだろう。

「……馬鹿だな、アイツ。絶対間違えていれてんだろ」
「あはは、ナマエはやっぱり流石だね。どう間違ったらパンツ入れちゃうの」

マイキーはお腹を抱えて笑い始めた。目には涙を浮かべていて相当おかしかったらしい。

「おい、マイキー、ちょっと話が」

場地がマイキーの方にやってくる。千冬は付き人のように場地の後を歩いている。

「んー、何場地」

マイキーがパンツを手でくるくると回しながら場地の言葉に反応した。

「あ?お前何持ってんだよ」
「俺のファンからの差し入れだよ」
「イカれてんな、ソイツ」

マイキーはまたツボにハマったらしく、お腹をかかえて笑い始めた。場地は呆れたようにマイキーを見ている。
それにしてもマイキーは随分と楽しそうだ。相当アイツのことを気に入っているらしい。悪い奴では無いと思うが、そこまで気に入ってる理由は何なんだ?俺は締まらねえ雰囲気にため息をこぼした。

We are shaped and fashioned by what we love.
(私たちの好きなものごとが私たちの人生をつくる)


20210522
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