甘美なる時に愛を込めて



両腕を振りかざす。
目の前の人間が人でなくなる。人形ではなく、ただの肉塊に成る。
皮を破く音、肉を裂く音、骨を砕く音。
それらの音達が辺りを包み込むのは一瞬で。
次の瞬間にはぐちゃりという音で終いだ。


「……ぎゃは」


ひとつ、笑ってみたが、楽しくなんてなかった。


「おい、もう殺戮の時間は終わったのかよ?」


振り返ると、顔面刺青の可愛い顔した殺人鬼がいた。
手には凶悪なほど尖ったナイフを持ち、くるくると手首のスナップだけで器用に回していた。


「よぉ、ゼロりん。デートのお誘いに来てくれたのか?僕すっごく嬉しいなあ。ぎゃははは!」
「まぁな。けど、お前そろそろ門限なんだろ?俺ちょー残念。かはは」


僕もそうだが、こいつもよく笑う。
ああ、なんだか愉しくなってきた。


「いんや、もーちょい時間あるんだよね、実は。今回のターゲット弱くってさぁ。あ、僕が強いだけか?ぎゃははは。しかも今日はわざわざ来てもらった訳だし」
「いやいや、また日を改めて、でもいいんだぜ」
「そう遠慮すんなって」
「…たく、しょうがねぇな」


向こうがナイフを構えた所で、僕も一歩を踏み出し、奴の前に止まる。


「大好きだぜ、人識」
「愛してるよ、出夢」



拳のぶつかる音と僕らの笑い声が辺りに響く。
それは、一瞬では終わりはしない。







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