僕の可愛い妹



目が醒めると、兄貴がいた。


暗闇。
漆黒。
陰影。
そんな言葉がしっくりくる真っ黒な部屋の中に私達兄妹はいた。

おはよう。

そう言った筈なのに声が出ない。
いや、もしくは耳が聞こえていないのかもしれない。

「おはよう」

兄貴が言った。
よかった、聞こえているみたいだ。
兄貴に聞こえているということは耳が可笑しいのかと思ったが、兄貴の声は聞こえたからどうなんだろうか。
全く、何が可笑しいのかわからない。

「どうした?」

考え込んでいたからか、兄貴が不思議そうに覗き込んできた。
自分と、同じ顔。

兄貴、あたしは可笑しいのかな。

あれ。
あたしは可笑しくなったのかな、と聞くつもりだったのに。
これじゃあまるで。


初めから可笑しいみたいじゃないか。



「可笑しいよ」



目の前の、自分とは違う、艶かしい顔が笑った。

あたしはおかしい?

「お前が可笑しくないのなら、何が可笑しいのか、僕に教えて欲しいものだね」

だったらきっと兄貴もおかしいね。

「きっとじゃないさ。確実に、だ。お前も、お前の兄貴も可笑しいよ。『強さ』と『弱さ』、片方のみをそれぞれに宿した存在なんて。依存するしか生きていく方法がないなんて」


人喰いとして。
カーニバルとして。
マンイーターとして。
生きていくだけなのだ。

探偵として。
殺し屋として。
匂宮雑技団の一員として。

互いが互いに依存しながら、生きるしかないのだ。


「僕は本当に『強さ』なのか?強さってなんなんだ?ただただ目の前の世界を破壊し尽くす力のことなのか?僕は、僕は、僕はっ!」


兄貴が強さじゃないんだったら、このか弱いあたしは一体何?



「強さに決まってんじゃねぇか」










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