寒すぎる




「…はあ…」

思わず溜め息が出る。
2月の上旬。全国的にすごく寒い。
勿論大阪も寒い訳で。
口から息を吐くと白い息が出る。
寒さが目に見えるようで余計に寒くなり、また溜め息が出る。
その溜め息も、白い。

(家帰ったらこたつ入ろ)

温かいココアでも飲もうか、と考えていたら、後ろから声をかけられた。

「おーい、ざーいぜーん!」

走ってくる足音も聞こえる。

(もしかして…)

立ち止まり、振り向こうとした時。
後ろから走ってきた謙也さんが俺の背中にぶつかってきた。

「…ってぇ…」
「きゅ、急に止まんなや…!」

俺が下敷きになって謙也さん共々、盛大に地面とハグした。
痛い。

「止まるんは俺の勝手ですやん」
「走るんは俺の生きがいや!」
「原因はあんたが走ってくるからですわ」
「スピードスターなんやからスピードは命やっちゅー話や!」

ああ言えばこう言う。
しかもうるさい。
走るん生きがいとか言うてるし。

(この人ほんまにアホなんちゃうかな)

「人生立ち止まってたらあかんでー」
「…で、はよう退けて下さい」

何か語り出したそのアホな先輩は未だ俺の上に乗っていた。
重い。

「お、すまんすまん」とか言いながらやっと立ち上がる謙也さんに続いて、俺も立ち上がる。
少し掌を擦りむいた程度で、これといった怪我はせずにすんだようだ。
結構勢いよく倒れたのに、これだけで済んだのは不幸中の幸いだと思う。

「ほんで、先輩達は何の用すか」
「…達?」
「ふっふっふ…」

突然響いた笑い声に驚く謙也さん。
「うわぁ!」とか言ってる。

(この人気付いてへんかったんか…)

きょろきょろ周りを見渡す鈍臭い先輩を余所に、俺はまた溜め息を吐く。
それと同時に近くの草むらがわさわさと動いた。

「よう気が付いたな、財前!」

がさーっと勢いよく飛び出してきたその人はそのまま、俺ではなく謙也さんにぶつかった。
そしてまた謙也さんは地面とハグする羽目になった。

(うわーデジャヴュやデジャヴュ)

「いったー…」
「う…すまん、謙也」
「って、ユウジ!?」

謙也さんの上乗っかってんのは、お笑いテニスで有名なバカップルの片割れであり、モノマネ王子ことユウジ先輩だった。

「何してん!?」
「お前に声かけよ思たら急に走り出すねんもん」
「…もう帰ってええですか、今日はこたつでココアの予定あるんで」
「何やねんその予定。みかんちゃうんか」
「ま、そろそろ歩こうや」

謙也さんの一言で3人並んで歩き出す。
ユウジ先輩が謙也さんの上から退ける時に「小春に見られとったらどないしよー」とか言ってたけどスルーした。


「んんーっ、エクスタシー!」
「ほんまよう似とるわー」
「俺を誰や思ってんねん」
「笑いの神やな」

俺は先輩達の少し後ろを歩き、ぼんやり2人の会話を聞いていた。

「白石はお笑いセンスなさそうやな」
「やっぱシュール路線狙わな、小春も言うてたし」
「師範はすぐダジャレで笑うてまうもんな」
「俺等のダジャレが最高なだけや!」

話題はテニス部レギュラーのお笑いについて、らしい。
ユウジ先輩は自分達のセンスを自信満々に自慢してる。

(小春先輩がおもろいだけやないの)

という考えが頭を過ぎったので、ちょっと試してみることにした。

「…ユウジ先輩」
「ん?」
「今からの会話にダジャレを交えて下さい」
「ふっふっふ…ええで財前、俺の…」
「はいスタート」
「最後まで喋らせえ!」

ツッコミはさすがだ。

「あー眠い…」
「謙也さん寝不足ですか?」
「おん、ちょっとな」
「実は俺もやねん…寝んの遅なって、朝起きんのも遅かってんー」
「それ、自業自得やないですか」
「やからな、今日朝食食えんで超ショック〜やってん」
「ぷっ」

不覚にも笑ってしまった。
つまらないダジャレやったのに。

「お、笑ろたな財前」
「…見事に会話に交えとったんで」

と、そこで何を思ったのか謙也さんがユウジ先輩に張り合ってきた。

「俺もダジャレなら負けへんで!」

(ほんまやろかそれ…無謀ちゃうん?)

「ええで、受けてたつ!」

ユウジ先輩は漫画でしか見たことない、人差し指をくいくいっと動かすベタな挑発をした。

「ほなら、今即興で考えて下さいね」
「お、おん…!」
「お題は『あったかいもん』でよろしくお願いします」
「うーん…あったかいもんかぁ…」

(めっちゃ悩んでる…仕方ない、自分が決めたろ)

「…じゃ、ストーブで」

ふと頭に浮かんできたのを言ってみる。
……少し、難しいかもしれない。

「す…ストーブ…ストーブ…」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……ストーブがすっ飛ぶ」
「…寒すぎますわー」


ユウジ先輩は何故か大爆笑だった。



2月の上旬。
3年生が卒業するのまであと1ヶ月と少しとなった。
こんな下らない会話が出来るのもあと1ヶ月と少し。
先輩達は高校に行っても遊びに来るつもりらしいし、きっと来てくれるだろう。
でも、やはり今まで通りとはいかない。
こんなにのんびり出来ない。


(淋しくなるやん)


本人達に言ったらきっと「お前ほんまに財前か!?」と驚かれてしまうだろうから、思わず言ってしまわないように、寒い寒い、と違うことを考えながら歩いていたら、後ろから謙也さんにタックルされたのだった。


確かに寒いダジャレ言われたけど、もうすぐそんな下らないことも聞けなくなると思うと、心がすかすかしたようになって、もっと寒くなった。




――――――

意味わかりませんね本当にすいません。
まとまりきれてない…!
もやもや消化不良です……
一年前の文章だったので何箇所か修正しました。

平々凡々さま提出作品でした^^





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