「こっち来んなぁぁあああぁ!」

人も疎らになり、少し静かな放課後の学校に響く叫び声。

「待て待てー」
「いぃぃやぁやああーっ!」

中庭を走る人影が2つ。必死の形相で逃げる謙也と、そのあとをなぜか楽しげに追う白石。只今部活後のたこ焼き代を賭けた鬼ごっこ中である。鬼は2人。制限時間は15分。終了時に鬼だった2人が今日の帰りにミーティングで最後まで残っていたレギュラーみんなのたこ焼き代を払う。監督であるオサムちゃんの考えた中学生には鬼畜なルールに泣いている者も、無論いた。

「俺ほんまに今金欠やねん!」
「それがどないしたん?」
「白石の鬼ぃぃいい!」
「鬼やけど」

こいつに説得など不可能だ。
そう察した謙也は後ろを振り返り、白石との距離を確認して逃げることに集中する。白石とは30メートル程離れている。

(このまま振り切るで!)
「スピードスターの名にかけてぇええ!」
「うおっ!?」

いきなり叫び出したかと思えば、謙也がスピードを上げて急に曲がった。すぐにあとを追いかけて曲がるが、そこには既に謙也の姿はなかった。

「ふぅ…もうちょいやと思たんやけどなぁ」

さすが浪速のスピードスターや、と白石は漏らし、他のメンバーを捜し始めた。



中庭で白石が余所へ向かうのを見ていた影がひとつ。

「よし、どっか行ったな…」

ガサガサと叢から出て来たのは真っ赤なアイマスクをつけたユウジだった。

「このままここに隠れとくんもなあ…」
「かくれんぼやないんやし」
「せやねん…っておい!?」

いつの間にいたのか、ユウジの隣には財前がヤンキー座りしていた。

「なんや財前か、驚かすなやっ」
「いた」

ユウジが財前の頭を叩き、財前が全然痛くなさそうに言う。ユウジを一瞥し、財前は軽くユウジの肩に手を置いて踵を返し、振り返って一言。

「タッチ」

そのあとは一度も振り返らずに走り去って行った。

「ざっ、財前んんんーー!」

現在鬼ごっこ開始から5分ちょい。最初にじゃんけんで負けて決まった鬼は白石と小石川だった。

(完全に油断しとった…!)

白石は謙也を追いかけていたから、財前は小石川にタッチされたのだろう。まあ、他のやつかもしれないが。

「あーくそ絶対仕返したる!」

ひとり大空に吠えるユウジであった。





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