「ゲームセット!ウォンバイ越前!」
ギュッとタオルを握りしめて彼らのラリーを見ていた。
いろんな媒体で見た天衣無縫の極みを発動させたリョーマは誰よりも輝いていて、誰よりも楽しそうにテニスをしていた。
人間離れをした技ばかりのこの作品だけれど、最後に行き着くのは「テニスを楽しむ」ということなのだろう。
もしかしたら幸村が勝てるかもしれないと思った。
リョーマが天衣無縫の極みを発動させることができなかったら勝ってたんだもん…。
改めて、テニスを始めた頃の楽しむ気持ちがとても大切なんだと痛感させられた。
閉会式で準優勝の賞状を受け取る彼らは関東大会の頃とは違って、やりきったという顔をしていた。
こうやって皆大人になるんだな、
閉会式も終わり、合流しようと黄色のジャージを探して歩いていると、会場を出てすぐのところで見慣れたジャージを着ている集団を見つけて駆け寄る。
「お疲れ様!」
「名字さんもありがとうね」
「みんな、スッキリしたって顔してる」
「負けたはずなのに、悔しくはないんだ。全力を出して戦って負けたからかもしれないね」
テニスをした後だというのに、いつも通りいい匂いがする幸村の隣に立つ。
20歳としてここに立つのは今日が最後だ。
これから彼らはミーティングを学校で行うらしい。
私は学校の最寄駅でみんなと別れて家へと帰る。
幸村と食べる晩御飯を作るために。
▽▲▽
バンバーグとポテトサラダとスープが出来上がったと同時に、玄関のチャイムが鳴った。
インターホンを確認すると幸村だったのでロックを解除して部屋へと上がってきてもらう。
「お疲れ様」
「お邪魔しまーす」
レギュラー陣は私がどうなるのか幸村に聞きたくてウズウズしていたらしいが、質問させない雰囲気を作ってミーティングを終え足早にウチに来たらしい。
ご飯を食べながらそんなことを楽しそうに言うもんだからなんだか少しだけレギュラー陣に悪い気がしてきてしまった。
ご飯の片付けをしている間にお風呂に入っていてもらう。
お家の人にはちゃんと連絡しているらしいから私はその言葉を信じることにしよう。
彼のご家族も準優勝をお祝いしたかっただろうに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
幸村が出たら私もお風呂に入って、お酒を飲み始めるくらいにはメンバーとの通話の約束時間になっているだろう。