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大会の会場からの帰りに「話があるんだ。」と幸村から声をかけられたのが10分ほど前。
私たちは、私の家の近くの公園のブランコに座っていた。

「ブランコ久しぶりに乗った〜」

ギコギコいう少し頼りのない音を立てるブランコに乗って、少しずつブランコの漕ぎ方を思い出す。

「それは良かった。で、本題なんだけどさ。名字さんは本当にもう一つの世界に行ってしまうの?」

それ関係の話をされると思っていたから構えていたものの、ど直球に聞かれるとびっくりする。
そして本題に入るの早すぎやしませんか。

ずっとずっと答えを出すのを避けていたんだ。
この世界が楽しくて、皆といるのが楽しくて仕方なかったから。
でも、前の世界の記憶を取り戻してみて、確実に充実していたし夢も希望もあったように思える。

前の世界だってとっても楽しかったんだ。
この世界みたいにイケメンと仲良くなったりすることはなかったけれど、友人だっていたし、たくさん楽しいことだってあった。

「私はね、どちらかの世界を捨てるのが怖いの」

だから、どっちかなんて私に選ぶことなんて難しい。そう思っていたのに。

「うん」

「向こうの世界を捨てても、こっちの世界を捨てても確実に後悔する。私の中で答えは出ているはずなのに、それを認めてしまうのが怖いの。どちらの世界も大切だから」

「名字さんと同じ立場だったら俺もきっとそんな風に考えると思う」

「期限はすぐそこなのに、ね」

ギコギコとブランコが軋む音がする。
小さい頃はこの音でブランコが壊れてしまわないか怖かったけれど、今はそんなこと無いとわかっているから、思いっきりブランコを漕ぐ。

とある少女みたいに時をかけてしまえたらまたもう一度この世界に来た時からやり直すのに。
テニス部と関わらない人生を歩むのに。
出会わなければ良かったなんて言わないけれど、出会わなければこんなに迷わなかったはずだ。
適当に過ぎる時間を過ごして、時が来れば帰ればいいと思っていた中1の頃には考えられない感情を持ってしまった。
幸村と出会って、テニス部と出会って、毎日がとっても楽しくて充実していた。

「前に帰らなくていい方法があるって言ったでしょ?」

「そんなこともあったね」

「期限の日の夜…全国大会決勝戦の日の夜に眠りにつくと元の世界に戻れるけど、眠らずに日付を超えるとそのままこの世界にとどまれるらしいの」

誰にも戻る方法を伝えるつもりはなかったのに。
嗚呼、私はこの世界にとどまっていたいらしい。