放課後になり、荷物を鞄の中にしまっていると、机に影ができた。
このウェーブがかった髪の毛は幸村くんだろうな、と思い視線をあげると大正解。
幸村くんが私の机の前に微笑みながら立っていた。
この人本当に反省していない。
悪いことしたと思ってないんじゃないだろうか。
ねえ、柳くん、幸村くんが反省する確率は何パーセントですか?
「みょうじさん体調はどうかな?」
ニッコリと悪びれる様子もなくそう聞いてきたから「お陰様で絶不調です。」と言いたくなったがここは教室だ。
テニス部のファンクラブの人たちがこの言葉をどう捉えるかわからないし、これ以上幸村くんに生意気な態度をとっていると偉そうだと文句をつけられそうだなので、「まだ少しだけしんどいけれど、大丈夫だよ」と微笑んでおいた。
「なら良かった。ちょっとだけ時間もらえないかな?柳が用事があるそうなんだ」
「柳くんが?」
「ああ。俺もよく分からないんだけれど、何か話しがあるらしい。部室まで一緒に行こうか」
「少しだけなら、」
そう言って幸村くんの後ろを歩いて部室へ向かう。
すれ違う女の子のほとんどの視線が幸村くんに向かっていることは一目瞭然だった。
その後に、後ろを歩く私の元へと視線が移動するのはお決まりだった。みんな私へと視線を移動させてきた。
幸村くんやテニス部のレギュラー達はこんな視線を浴びながら毎日過ごしているってことでしょう?本当にすごいなぁ…。
そりゃ精神も強くなるよな。
部室へ着くと、ジャッカルくんと柳くん、そして昨日の事件を一切知らない真田くんがいた。
他のメンバーはホームルームが延びているみたいで少し遅れるような雰囲気だった。
せめて雅治のクラスは私がこの部室から出て行くまでホームルームを延ばしてくれ。
「突然呼び出してすまない。」
「ううん、大丈夫だよ。幸村くんが適当に嘘ついて仁王くんと私を合わせようとしてたのかと疑ってたから柳くんからのお呼び出しの話が本当で安心した」
「俺はそんなに信用ないかな?」
「昨日のあんなことしといてよく言えるよな…」
「昨日何かあったのか?」
「真田くんは知らない方がいいと思います」
「むっ、」
「そのうち知ることになるだろうし、まあ気にしないで」
テニス部に関わりたくないと思っているのに、ふらふらと流されてしまうあたり意志の弱い人間だな、と悲しくなった。
「ところでみょうじ体調は大丈夫なのか?ブン太が保健室にサボりに行ったら利用者名簿にみょうじの名前があったって言ってたぜ?」
「みょうじ体調が悪いのか?」
「保健室で休ませてもらったからもう大丈夫だよ」
「いや、体調が悪いのなら、また後日にしよう。そこまで重要な話をではない。明日休まれても困るしな。」
ただの寝不足だし、そこまで心配しなくても良いんだけど…。
荷物を持って部室の扉を手をかけたところで幸村に声をかけられた。
「あ、俺は君の気持ちを君の口から聞くまで諦めないから。俺がみょうじさんの事を好きなことは忘れないでいてほしいな」
そう言って私を部室から追い出した。