思わず思いっきり幸村を突き飛ばしてしまったけれど、これは私に非はない。はずだ。
「まっ、」
「本気だって言ったでしょ?」
「だからって…!」
「こうでもしないと信じてもらえないでしょ?」
スッと立ち直したと思ったら、またふんわりと微笑んだ。
本当に綺麗に笑う人だな幸村くんは。
「ということだから、よろしくね」
なんて言いながらテニス部の皆に笑顔を振りまいている。
気になって雅治の顔を見てみるけれど、いつも通りの顔をしている。
やっぱり、私が誰とキスしようと関係ないんだろうな。
「……帰る。」
幸村くんにキスされたこともショックだったが、それよりも雅治の反応がショックだった。
ただの幼馴染だからこの反応が正解だってことはよくわかっているけれど、もう少し反応が欲しかった。
ジャッカルくんや丸井くん並みに驚いて欲しかった。
荷物を取り、部室を出る。
ジャッカルくんと丸井くんの焦った声が締めた扉から聞こえてくる。
この2人が幼馴染で、好きな人だったら何かが確実に違ったんだろうなぁ。
雅治は何事もなかったかのように振舞っていて、私と雅治の関係なんて結局そんなものなんだ。
その日の夜、何事もなかったかのように我が家にご飯を食べにきて、お母さんとちょっと会話をして家に帰っていった。
いつもなら私も一緒にご飯を食べるんだけれど、今日はいらない、と断った。
▽▲▽
あまり眠れず学校に行くと風紀委員の身だしなみチェックが校門で行われていた。
今日は見なかった真田くんと柳生くんの姿が見える。
昨日のあの幸村くんの行動を真田くんに見られていたら口うるさかったんだろうなぁ。
いつも通りなら何の問題もなくチェックをすり抜けられるはず。
そう思って柳生くんの前を通り抜けようとしたところで止められた。
「みょうじさん、顔色が悪いですよ…?」
「びっっくりした…何か身だしなみに問題があったのかと思ったじゃん……」
「身だしなみはいつも通り完璧です」
「真田くんに反省文書くのは嫌なのでちゃんとしてます」
「ただ、顔色が悪いのが気になります…。眠れてないのですか?」
「昨日、ちょっとしたことがあってね。それのせいで」
ヘラリと作り笑いを浮かべる。
はやく教室に行かせてほしい。
「何かあれば保健室に行ってくださいね」
「ありがとう」
足早に柳生くんの近くから離れる。
この柳生くんは雅治の柳生くんだ。
何がしたいのか本当にわからない。
テニス部にはもう関わりたくない。