「幼馴染って言っても、ね。あんまり話さないしね。」
「そうじゃの。俺と一緒におる丸井でさえ気づいてなかったくらいやしのぉ」
幸村くんも私の説得に時間がかかっていると思っているのか、まだ部室に来ない。
「あ、そうだ。お母さんがね、」
「ん。わかった。終わったら寄りますゆうとって。」
「待て。なんで今のでわかったんだ?!」
私も謎である。
この前のお弁当事件の時でも最後まで言わずに理解されて、ちゃんとご飯を食べに来たし。
「今日の朝、おかんから"今日の晩御飯はみょうじさん家で食べてね "ゆわれとったけんね。」
「そういうことか…」
おばさんから伝えられてるなら私がわざわざ雅治に伝える必要全くなくない??
なんで私がリスクを冒してまで伝えなければならないんだ?
現にそれのせいでこうやって面倒ごとに巻き込まれてしまってる。
「そろそろ幸村がくるな」
時計に目をやって、そっと柳くんがつぶやいた声は私たちには届かなかった。
「ねえ、柳くん。なら、私が雅治に伝える必要ないよね?」
「ん?ああ、そうだな」
「だよね」
帰ったらお母さんに雅治とはできるだけ喋りたくないから、伝言を頼むのはやめてくれって言っておかなきゃ。
がちゃり、音がして部室のドアが開いた。
「みょうじさんもう来てたんだね」
雅治がまだ部室にいるのに、幸村が部室に来てしまった。
少し話し込んでしまったみたいだ。
雅治がいない状態で幸村が部室に来るのが理想だったのに。
「幸村。なまえには関わるなってんーとったはずなんやけど?」
「…。なんでみょうじさんの彼氏でもない仁王にそんなことを言われなきゃダメなのかな?」
「それは…」
「好きな人に話しかけようと俺の勝手でしょ?」
2人の間に不穏な空気が流れ始めて喧嘩にでも流れ込むのかと思ったら、幸村の爆弾発言によって喧嘩が起こることなく、部室の空気が静まり返った。
幸村くんのお得意の冗談?
今まで接点のなかった私に幸村くんが惚れるはずない。
「お得意の冗談でしょ?」
「本気だよ?」
そういうと私の腕を引っ張って、胸の中へと納めた。
そして、幸村くんの唇が私のそれに触れた。
雅治はどんな顔をしているのだろう。