純は竜と距離を置くようになった。
今まで部活以外の時は一緒にいた二人が別々にいることが多くなった。
最初は全然理由が分からなかった。でも、暫くして俺の耳に入った噂で理由が分かった。
「竜は小山さんと付き合っている。」
小山遥。野球部のマネージャーで、美人。背は低くて髪は長い。成績優秀、品行方正。Etc.
最近の悩みは日に焼けて肌が赤くなること…らしい。男子の中では群を抜いて人気が高い。
俺の頭の中にある小山遥という人物はそういう人物だった。でも、竜と付き合ってるなんて知らない。
別に教えてくれなかったのが嫌な訳じゃない。相談してもらいたかった訳でもない。
ただ、そのことを知っていたら…もっと早くに気が付いていれば…純と竜を二人きりになんてしなかった。
竜は馬鹿だから…純の気持ちなんて気付いてないだろうから、きっと純を泣かせてしまった。
馬鹿だ。俺。
こんなことになるなら、竜なんか放っておいて純と二人で帰ればよかった。傘なんて貸さなければよかった。
今更後悔したって仕方がないけど、無性に何かを壊したい衝動に駆られた。
白球が空に流れている。グラブの乾いた音が響く。ボールが飛んできた方向を見ると竜がいた。
「なぁ、亮。今日一緒に帰ろうぜ。」
「大切な彼女はいいのかよ。」
言葉とともにボールも投げ返す。竜は危なげもなくグラブでキャッチした。
「今日は先に帰って、って頼んどいた。」
もう頼んでるのかよ。それって俺に拒否権ないじゃないか。わかって言ってるのか、それとも天然で言っているのか分からない。
こんな面倒臭い奴、純も小山もどこがいいのか分からない。…っていうのは俺の嫉妬。
竜は俺にないものを全部持っている。野球の才能も、それを生かすだけの精神力も、優しさも、ルックスも、なんでも持っていた。
俺は小さくため息を吐いて、再び飛んできたボールをグラブに収めた。
「分かった。その代わり惚気は聞かないからな。」
その日の夕日は焼けるように真っ赤に光って白球を赤く染めていた。
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