「純、大丈夫か?眼腫れてるぞ。」

教室に来た亮が心配そうに声をかけてきた。やっぱり今の俺は傍から見てもひどいことになっているらしい。

「ちょっと寝不足なだけ。昨日なかなか寝付けなくて…。」

そう言って出来る限りの笑顔を作った。そうするのが今の俺には精一杯だった。

「…傘は?」

「竜に渡したけど…まだ来てないか…。ダメだった?」

「純濡れて帰ったのか?」

「うん。ちょっとだけ。竜は身体が大切だから濡れて風邪でも引いたら大変だろ。」

「俺は竜に貸したんじゃない。純に貸したんだ。」

「えっ?」

「俺にとっては竜なんかより純の方が大切だって言ってるんだよ。」

「分かったって。そんなに怒るなよ。…亮って竜のこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど…。ほら、馬鹿は風邪引かないって言うだろ?竜が風邪なんて引く訳ないって。馬鹿だから。」

「だまれ。」

その言葉とともに亮の頭の上に折り畳み式の傘が落ちてきた。というより振り落とされた。バシンと音が響いて亮は頭を押さえながらうずくまった。

「いてー!」

「人を馬鹿呼ばわりするなよ。純、こんな奴の言うこと聞くなよ。」

「いて〜。お前人が貸した傘で頭叩くってどんな神経してるんだよ。折角の天才的な頭脳が馬鹿になっちゃうだろ。」

「はいはい。お前が悪いんだろ。なあ、純。」

「…うん。そうかもね…。俺、ちょっと気分悪いから保健室行ってくる。」

「おい、まだ一時間目も始まってないのに大丈夫かよ?」

「…大丈夫。」

純はそれだけ言って教室を出ていった。残された二人はちょっとだけ戸惑って動けずにいた。

「なぁ、亮。…俺なんかした?」

「…お前が悪いだろうな。絶対お前が悪い。」

「何だよそれ。やっぱり傘純に貸してた方がよかったのか…?」

馬鹿だ。…やっぱりお前が悪い…。

亮は心の中でそう思った。



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