「この前、部活が終わったときに告白したんだよ。結構緊張したなぁ。」

笑って言う竜と、笑えない俺。

「初めて見た時から可愛いなぁって思ってたんだ。これって一目惚れってやつかな。」

さっきまで気にならなかった雨の音がひどくうるさく思えてきた。

「小山遥(おやま はるか)って言うんだけど、純知らないか?」

小山遥。聞いたことのある名前だった。
確か、クラスの友達が騒いでいたのを聞いたことがあった。
すごく可愛くて、性格もよくて、成績もいつも上位にいるって言ってたな…。
その時、俺は呑気にすごい人がいるんだなぁって相槌を打っていたと思う。

直接姿を見たことはないけれど、噂の所為で俺の中には完璧な想像が作り上げられていった。

「すこしなら噂で聞いたことある…。」

「だろ?すげー可愛いんだ。背なんて純より低くてさ、髪は長いんだけど…」

「…分かったって。惚気るなよ。俺、そんなの聞いたって楽しくないって。」

「そんなこと言わずに聞けって。野球部の奴に言ったら茶化されるだけだから、純に言うのが初めてなんだ。」

「なんで俺なんだよ。亮とかならいいじゃん。」

「だってさ、純だったら相談とか乗ってくれそうだし、俺のこと分かってくれてると思ったからさ。」

竜は少し照れながらそう言った。
なんだよそれ…。俺、受け入れなくちゃいけなくなるだろ。俺、逃げられなくなっちゃうだろ…。

俺は竜の気持ちを分かってあげなくちゃいけないから、、、

精一杯の笑顔を作った。

「頼りにしてるからな、純。なんか俺よりも女心分かってそうだし。アドバイスしてくれよな。」

俺、竜の相談聞いてやらなくちゃいけないのか?アドバイスしてやらないといけないのか?そんなの嫌なのに…。

やらないといけないんだろ?

「…わかったよ。何かあったら…話聞いてやる。…じゃあ、俺もう家近いから。」

「そっか、じゃあな。はい、傘。」

「いいよ。竜が使って。俺なんかより、竜の方が大切な体なんだからさ。それに竜の家の方が遠いだろ?そのかわり亮に返しといてね。」

竜はあまり納得しなかったみたいだけど、強引に説得して俺は傘を出た。上から冷たい雨粒が落ちてくる。雨で周りの風景は白く煙っていた。

「じゃあね。また明日。」

俺は走って竜から離れた。走って、走って竜が見えるぎりぎりの曲がり角に差し掛かった時に振り向いた。
そこには傘を差してこっちを見たままの竜がいた。俺は大きく手を振った。竜の傘が揺れる。

雨が…大嫌いな雨が降り続いてくれるように願った。顔を流れる冷たい滴が何なのか竜に分からないように。

できることならこの胸の痛みも流してくれるように願った。

だけど、曲がり角を曲がっても痛みは残ったままだった。



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