竜が走ってきているのが見えた。なぜか咄嗟に逃げなくてはいけないと思った。でも、純はそんな気があるはずもなく、振り返ったままこちらを見ようとはしなかった。

「純。今日俺、部活休みだから一緒に帰ろうぜ。」

竜が少し頬を紅くしながら言った。

「…でも、亮と帰る約束してるから…。」

純は少し困ったように言った。俺はほっと胸を撫で下ろした。「今日は二人きりで帰るんだぞ。」そう言おうと思ったその時、純がこちらを振り返った。その瞬間唇を強く噛んだ。

振り返った純の顔は期待に満ちていた。竜と帰れるという期待。

純の眼は俺の存在を必要としていなかった。むしろ邪魔だと訴えているようだった。

手の中で折り畳み式の傘が音をたてた。

外ではまだ雨が降る音がする。

二人きりで帰るとか、相合傘だとか、俺のちっぽけな頭の中で描いていた想像が流されていく。

この時、俺が無理にでも純を引っ張っていけば、どうなっていただろう。竜を追い返したらどうなっていただろう。

…そんなの馬鹿な俺でもわかる。
純は悲しむんだ。俺がどんなに笑わせようと明るくふるまっても笑ってくれないんだ。そんなの選べないじゃないか…。
もっといい方法があったのかもしれないけど、俺はそんなに利口じゃないんだ。

「俺のことは気にしなくていいぜ。俺やっぱり親に迎えに来てもらうから傘も二人で使えよ。」

そう言ってちょっとだけ乱暴に傘を渡した。純は驚いていたけど、確かに嬉しそうに笑った。頬を紅く染めて…嬉しそうに…笑っていたんだ。
馬鹿な俺はそれでいいと思った。純の笑顔はこれなんだ。

「頑張れよ。」
その言葉が自然と口から出た。今考えると応援するなんて本当に俺って馬鹿だよな。純が好きなのは竜なのに…俺じゃないのに…。

何を考えているんだろう、俺。

後ろを一度も振り返らずに教室まで戻った。窓の外はどんよりと曇っていて灰色の空が広がっている。やっぱり雨は嫌いだ。気持ちまで濡れてくる。

誰もいないがらんとした教室にたった一人自分だけの空間だった。

窓の外の見覚えのある傘に視線を戻す。それは揺れながら校門の方へと向かった。

やっと見えた。傘の下の人物。笑顔を向ける可愛い純とそれに答える顔の整った竜。男同士なのにすげー画になる。

俺なんかじゃ絶対に無理だ…。

今まで純が持っていた傘を竜が持ち直した。純が何か言っている。きっと純のことだから自分が持つなんて言っているんだろう。

それを抑えるように竜の手が純の頭に載せられた。
小さな子を宥めるかのようなその動作はあまりに自然で純は顔を真っ赤にしていて、、、再び並んで歩き出した二人の距離がさっきよりも近い気がして、、、俺は眼を逸らした。

窓の外では雨の音がする。こんな雨なんて止んでしまえばいいのに…そう思った。



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