部活が急に休みになった。雨が原因だ。昼休みにキャプテンから連絡があった後、俺はすぐに教室に戻った。
別に部活が休みになったのが嬉しかったわけじゃない。むしろ、動かすことが出来なくなって身体がうずうずしている。
だけど、それ以上にこのチャンスを生かしたかった。
「純、今日一緒に帰ろうぜ。」
部活が休みになることなんて滅多にない。だから純と一緒に帰るなんてほぼ無理に近かった。
純はと言うと少し考え込んだ後「傘を持っていない」と言いだした。そんなこと関係ない。濡れてでも純と帰りたかった。というか、こんなこともあろうかと、俺は傘を鞄に入れっぱなしにしていた。
期待しすぎかもしれないな。
「大丈夫。こんなこともあろうかと俺はいつも折り畳み傘を持ってきてるんだよ。準備いいだろ。」
「おお、亮にしては準備がいいな。」
「俺にしては、ってどういう意味だよ。まあ一つしかないから相々傘になるけど…別にいいよな?」
「気にするかよ。竜だったらドキドキするかもしれないけどなぁ。」
やっぱり俺は馬鹿だ。こんなこと純が真面目に言うはずない。そんなこと分かっているのに…『竜だったら』その言葉が痛かった。
本当に俺は馬鹿だ。ほら、純も機嫌の悪い俺を見ておどおどしてるじゃないか。俺は純を笑わせてやらないといけないのに。
俺は出来る限り明るくふるまった。それで純も笑ってくれた。これでいいんだ。これが俺の役割。俺に出来ること。これが俺の馬鹿な頭で考えた精一杯の答え。
放課後になっても雨は降り続けていた。この時ばかりは少しだけ雨のことが好きになった。
勢いよく靴箱の扉をあける。そこにはいつもと同じだけど、いつもより綺麗に見える靴がある。その靴を取って鞄から折り畳み式の傘を取りだしたときだった。
後ろから聞こえた声に思わず振り返った。純の名前を呼ぶ声、嫌いな奴の声が聞こえた。
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