「純は本当に竜のことが好きだよな。」
亮がパンをかじりながら言った。もう最後の一つになっていた。グラウンドにある竜の姿を見つめる。
背が高くて顔立ちも整っていて、遠目から見てもすごくかっこいい…。俺なんかと釣り合うはずはなかった。
「竜ってさ、なんか完璧オーラが出てるよな。」
「は?完璧オーラってなんだよ。俺も馬鹿だけど、純も馬鹿だよな。」
「いや、なんかオーラっていうか雰囲気というか、、、なんでも出来そうな気がする。」
「…馬鹿じゃん。」
「は?」
「だって、竜馬鹿じゃん。なんでも出来る奴なんていないって。」
「そっか、そう言えば竜って馬鹿だよな。まあ亮よりは頭いいけど。」
「うるさい!馬鹿馬鹿言うな!」
「…それに俺だったら純をこんなに悲しませない…。」
亮がなにかぽつりと呟いた。
「えっ?何て言った?」
「何でもない。…ごみ捨ててくる。」
そう言うと亮はたくさんのパンの袋をくしゃくしゃにして立ちあがった。
「てか、亮。お前グラウンド整備行かなくていいの?」
「俺、今日当番じゃねーもん。それに、純と話してる方が断然楽しいし。」
亮は笑いながらそう言った。俺はこの笑顔に何度助けられただろう。ある意味で竜以上に心を許していると思う。
いまごみ箱に向かってまとめたパンの袋を投げている少年のような友人がいたからこそ今の俺はあるんだ。
少しして亮が戻ってきた。
「くそ〜。一発で入らなかった。」
投げたごみが一発で入らなかったのだろう。悔しそうな顔をしていた。この小さな子みたいな純粋さのおかげで俺はまだ竜を諦められないでいる。
窓の外の竜の姿を見つめた。
「なぁ、純。俺、前から気になってたんだけど、純が野球辞めたのって竜の所為?」
突然の亮の言葉に驚いた。
「何で…?」
「何でって…まぁ何となく、かな。」
俺はそんなにも分かりやすかったんだろうか…。隠していたはずのそれは容易く亮に見破られた。
「別に竜の所為じゃないよ。ただ、俺って才能ないなーと思ったから。」
「ふーん。純は高校でも野球続けるのかと思ってた。」
「俺なんて続けても上手くならないよ。」
「そっか…。純がそう言うなら別に構わないけど、純ほど野球好きな奴居ないと思うのになぁ。俺さ、純と一緒に野球するのすげー好きだったのに。」
「…ごめん。」
それしか答えることが出来なかった…。俺は最高の理解者に嘘をついた。
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