「以上、九人がスタメンだ。」

監督の声がそう言った。

その名前は俺のものではなかった。

唇を強く噛んだ。目に涙が溜まる。選ばれなかった。そのことだけがぐるぐると頭の中を回る。俺の三年間の中学野球が終わった。俺と竜の一年間の朝練も努力も何もかもが、、、

いま、ここで、終わった…。

そう思った時だった。

「ベンチメンバーを発表する。」

そうだ。こんなところで泣きそうになってる場合じゃない。スタメンに選ばれなかったといっても試合に出られない訳じゃない。
ベンチメンバーにでも入ることが出来ればチャンスは回ってくるかもしれない。

その確率がどんなに低くても、もう俺はその可能性に賭けるしかないんだ。

「10番……」
違う。
「11番……」
違う。
「12番山崎純。」

確かに聞こえた俺の名前。監督は順に名前を呼んでいる。その中に確かにあった俺の名前。返事なんか忘れてしまって俺はまた泣きそうになった。

三年間一度もベンチメンバーにすら入ることのできなかった俺が最後の試合に出られるんだ。
レギュラーから見るとたかがベンチ入りしただけで、って思うかもしれないけれど、俺はそのときすごく嬉しかったんだ。

「純、よかったな。」

監督の話が終わった後竜が声をかけてくれた。亮もふざけて抱きついてくる。

「亮、離れろって。苦しい。」

「だって、俺も嬉しいんだよ。俺たち一緒に頑張ったじゃん。一緒に試合出れるんだぞ!俺、、、何か、、、あー純、好きだー!」

「一緒に、って言っても俺はベンチだけどな…。てか、亮早く離せって。」

「いやだー。はなさねぇー。」

「分かったって。…竜、頑張ろうな。俺も頑張るから。」

「ああ。俺たちの最後の試合だしな。…俺たちならやれるって。」

「うん。」

俺たちの試合は刻一刻と近づいていた。グラウンドに一陣の風が吹きおこる。その風は砂を巻き上げながら俺たちの間を吹き抜けていった。顔に当たった砂埃が少しだけ痛かった。

そして、あの日がやってくる。俺の最初で最後の試合。あの日をきっかけに俺は逃げだしたんだ。

大好きな野球からも、、、竜からも…。

そして、俺は今ここに居る。竜がいるあのグラウンドではなく、誰もいない教室の窓際に…。

「…遠いな…。」

呟いたその言葉は誰に受け止められることなく消えていく。

俺の気持ちも消えてしまえばいいのに。そう微かに思った。


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