他の人よりも早くに学校に行って練習を始めるのが日課になった。
暑い日も寒い日も一緒に学校に行って一緒に練習した。少しでも長く竜と一緒に居たかった。だから雨の日が嫌いだった。
朝起きて雨の音が聞こえると真っ先に携帯を開く。そこには竜からの「今日は休みな。」という簡単にまとめられたメールが来ている。
その一通のメールを見ると一気に気持ちが堕ちていくんだ。
そんな毎日を繰り返しながら一年間が過ぎていった。もう上級生は引退してしまって今では俺たちが三年生だ。
以前のようにランニングで竜に置いていかれることも無くなっていたし、なにより上手くなったことで大好きだった野球がもっと面白くなった。
でも、今日が最後の練習になってしまうかもしれない…。
というのは、俺たちの学校の野球部は最後の夏の大会のレギュラー発表があると。それに入ることのできなかった三年生の部員はレギュラーの補佐や下級生の面倒を見るのが伝統になっているからだ。
つまり、レギュラーになれなかった三年生は野球をする権利を何の前触れもなく急に奪われるということだ。
…そんなのは絶対に嫌だった。
それに、俺が選ばれなかったら竜とのこの一年間が無駄なものになってしまう。俺たちの一年間が意味を失ってしまう…。
放課後の練習がすべて終わって監督から集合がかけられた。自然と駆け寄る足が速くなる。心臓が高鳴り、手が微かに震える。
「今度の中体連のメンバーを発表する。」
監督の低い声が身体を震わせた。ひどく喉が渇いた気がする。
「1番、ピッチャー矢野竜。」
「はい!」
竜の声がグラウンドに響く。心配なんてしてなかったけれど、竜が選ばれた。
次々と名前が読み上げられていく。その中には亮もいた。6番ショートだ。
そして遂に9人目の名前が呼ばれた。
一瞬、周りの風景がざわついた気がした。
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