二人の間にしばしの沈黙が流れた。
「…どうだろうな…。」
それがいまの俺に言える精一杯の言葉だった。
この学校の野球部はいつも県大会出場の一歩手前で敗退して逃してしまっている。去年は竜も出場していいところまで行った。だけど、野球は個人競技ではなかった。
どんなに竜が相手打線を抑えても、こちらが点を取らなければ勝てるはずもなく、、、
結局去年の最後の公式戦も0対1で負けてしまった。
「それで朝練してるのが俺と純だけっておかしいよな。皆勝つ気ないのかよ…。」
背中を押される力が少しだけ強くなった気がした。
「痛いって、竜。」
「あ、、、ごめん。」
「あのな、竜。今日は俺たちが早いだけだって。もう少し待ってれば何人かは来るはずだって。」
その言葉通り一人の部員が部室の方向から走ってきた。…でも、そいつは何かを叫びながら近づいてくる。
こんなことをするのは決まっている。
「やめろって竜!こんなところで!」
「はっ?なんのことだよ。」
「何の事って…。あぁ柔軟してたのか。俺てっきり竜が純のこと襲ってるかと思って。」
「お前馬鹿だろ!そんなことするか!」
慌てて竜は俺の近くから離れた。俺も竜もみるみる顔が紅くなっていく。
「だってさ、純は背が低くて可愛いし、竜は背が高くてかっこいいだろ。なんかお似合いじゃん。」
そうやって俺の気も知らないでそんなことを言う天然ボケは杉本亮(すぎもと あきら)。同じ二年の野球部員だ。こいつもすごく野球がうまい。
ピッチャーだった竜に比べてあまり目立たなかったけれど、一年生の初めから試合にちょこちょこ出ていた。
竜とは違うタイプの尊敬できる奴。
そして、、、
「お前、男同士でそんなことするはずないだろ!」
「わかんないって。だって俺、純とならセックス出来そうだ。」
…すげー馬鹿。
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