「なぁ、一緒に朝練しないか?」

そう言ってきたのは竜の方からだった。俺は嬉しくて断る理由もなく即答でその考えに賛成した。

俺たちの学校の野球部には強制的な朝練というものがない。各個人でやりたいときにやりたいメニューをこなすだけだ。

今まで俺は欠かさずに出ていたけど、竜と一緒に参加したことはなかった。
大好きな竜と大好きな野球を少しでも長くできるようになった。

そのことが嬉しかった。

次の日から俺たちの朝練は始まった。いつもの時間よりも早い時間から始める。

まずは簡単に身体を起こすために軽くグラウンドを走る。軽くとは言っても俺と竜の差はどんどん開いていく。
ゴールした時には半周近くも差がついてしまった。

少しだけ息が上がっていた。

「ほら、水。」

さきにゴールしていた竜が水の入ったペットボトルを渡してくれた。息を整えながらそれを口に含む。喉を通ったそれは全身を回る。

「純はペース上げすぎだって。ジョギング程度のペースでいいんだよ。」

「竜が速いんだって。つられて速くなるんだよ。っていうかあれがジョギングペースかよ。竜、お前おかしいんじゃね?」

「おかしいって言うな!あれが俺の普通なんだよ。」

…少しだけ悔しかった。

ついていけなかった竜のあのペースは普通のペースか、、、

なんかすげー嫌味…。

「ほら、純。柔軟するぞ。」

「うん。」

竜が俺の背後に回る。足を広げて座った俺の背中を竜が押す。力強い手の感触が伝わってくる。

少しだけ鼓動が速くなる。

この頃、野球の上手い竜は俺なんかと組まなくて、いつも先輩たちと組んでいた。
だから、こんなに意識したことなかったし…。

やばい、余計なこと考えてたらすげードキドキしてきた、、、

「なぁ、純。」

「うん?」

急に話しかけられたから思わずびくりとしてしまった。

「ははっ純うける。声裏返ってるって。」

「うるさい!で、なんだよ。」

「俺達さ、三年になって引退するまでに県大会行けると思うか?」

そう言った竜の顔は先ほどと同じ顔とは思えないほど真剣な面持ちだった。



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