中学の頃すぐに野球部に入った。竜とは小学校のころから知っていたから最初のころはよく二人で柔軟をしたり、キャッチをしたりしていた。
だけど、二年に上がってすぐのことだった。竜の才能は目覚めた。
もともと速かった球はさらに速くなり、少しだけ不安だったコントロールも思ったところに投げれるようになっていた。そのころから三年生を押しのけて試合にも出るようになっていた。
それに比べて俺は二年になっても一年と同じメニューをしていた。
次第に竜の背中を遠く感じるようになっていった。
「なあ竜、お前野球うまくなったよな。」
部活が終わって二人で帰っている時だった。少しだけ前を歩く竜に声をかけた。
『そうか?確かにコントロールは良くなったけど。純もうまくなってるじゃん。』
俺は答えなかった。俺なんて竜に比べたら毛ほども成長していなかった。
「竜はさ、今度の試合先発に選ばれたじゃん。それに比べて俺は…。」
そう、竜は先発投手に選ばれた。それに比べて俺はと言うとベンチメンバーにも選ばれることなく、去年と同じ選手の荷物持ち。
『…まだまだ俺たち二年じゃん!先輩たちが引退したら純も選手になれるって。それまで一緒に頑張ろうぜ!』
「ありがと。そうだよな!俺たちまだ来年があるもんな。俺も竜みたいに頑張らないと。」
『そうだって。明日も練習頑張ろうぜ!』
そう言って竜は肩を組んできた。その肩は前あった場所よりもずっと高い位置にあった。それが少しだけ悔しくてぐっと引きよせた。
竜は笑いながらされるがままになっている。
竜の匂いが微かに鼻をくすぐる。心拍数が上がるのがわかった。
『純、きついって離せよ!』
「いやだ。離してやるかって!」
笑いながら二人で道を歩いていく。
この時俺はまだこんな日がずっと先まで続くと思っていた。俺は何も分かっていなかったんだ。
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