カキーン
グラウンドに金属バッドの高い音が響く。
今日もグラウンドで野球部が練習している。全員が同じ格好をして白球を追っている。いかにも青春って感じだ。
それに比べて俺、山崎純(やまさき じゅん)はと言うと、そんな青春を享受している奴を眺めているだけ。
そう、ただじっと眺めるだけ…。
こうやって教室の窓から放課後のグラウンドを眺めるのが日課になった。
別に誰かが迎えに来るのを待っているのではない。何もせずに眺めているだけ。
正確に言うとグラウンドではなく、グラウンドに居るあいつを…。
先輩と混じって投球練習をしているあいつは背が高くて真っ白なユニフォームが似合っていた。
矢野竜(やの りゅう)それがあいつの名前だ。運動神経抜群で次期エースを期待されている。
顔立ちも整っていて、性格もよいあいつは異性からも同性からも好かれている。
「はぁ」
ため息をひとつついて席を立った。
俺も、あそこにいれたらいいのに…。いや、つい一年まえまで一緒に居たんだ。中学校の頃俺と竜は同じ野球部に所属していた。それどころか小学校の少年野球チーム時代から一緒だった。
だけど、俺は逃げてしまった…。
野球は好きだ。サッカーよりもバスケットよりも他のどんな運動よりも野球が大好きだ。それは今でも変わらない。
だけどそれ以上に俺は竜のことが好きだった。
だから俺は逃げてしまった。大好きな野球からも竜からも…。
やりたいけどやりたくない。伝えたいけど伝えたくない。こんな矛盾した考えが頭をめぐる。
俺なんかが竜に釣り合うはずなんてない。というか男の俺を竜が見てくれるはずがない。しかも野球から逃げた俺と竜をつなぐのは同じクラスの奴ってだけ…。
俺に残されたのは何もない。
俺が逃げてしまったから…。
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