家に着いた俺はインターホンを押した。自分の家なのにおかしいけれど、今はそうしなければいけないと思ったんだ。
でも、いくらインターホンを押しても中からは誰も出てこない。もしかしたらもう康祐は帰ってしまったのかもしれない。
それとも俺を探してくれているのかもしれない。
だって外はこんなにも寒くて、凍えそうで、寂しいんだ…。
ゆっくりとドアを開けて家に入る。リビングには誰も居なかった。
二階へと足を運んだ。
一段一段上がるたびに不安がこみ上げてくる。
康祐が帰るはずない。だって康祐は秀のことが大切で大好きだから。ましてや俺なんか探してくれるはずない。探すどころか気にも留めてくれない。
本当はそんなこと分かっていた。
さっき家に入るときに見たんだ。玄関に置いたままの康祐の靴も、電源を入れた携帯に誰からの着信も入っていなかったのも、全部見たんだ。
床がぎしぎしと軋んだ。
ゆっくりと秀の部屋のドアを開ける。電気はついたままだった。まるで俺に見せつけているようだった。
ベッドには体調が悪いはずなのに穏やかな寝顔の秀がいて、それに寄り添うように康祐がベッドに顔を伏せて寝ている。
その手はぎゅっと秀の手を握っていた。
手の中で2つのシルバーリングを包んだ紙がぐしゃりとつぶれる音がした。
投げつけてやろうかと思ったけどやめた。きっとこれは俺のものにはならないから…。
自分の部屋に行って持ってきた毛布を康祐に掛けた。手はまだ強く握られている。そんな空間に俺が耐えられるはずもなくて再び自分の部屋へと戻った。
電気もつけずに毛布のないベッドに横になる。ゆっくりと目を閉じると不意に泣きそうになった。康祐とセックスをしていたのがとても昔のことに思えた。
さっきのしっかりと握られた手が瞼の裏に蘇る。
自分の手に力を込めてみた。
だけどそこにはなかった。温もりも優しさも愛しさも何もなかった。あの手にはそのすべてがあったように見えた。
ただ握っているだけなのに、俺と康祐がセックスをしている時とは比べ物にならないくらいの愛情があった。
俺の手が掴んだものは今も昔も皺の寄ったベッドのシーツだけだった。