「いや、俺はこのことを康祐に言いたかっただけ…。」
本当は、、、本当はその先まで、康祐への思いまで言いたかった。でも、俺なんかじゃ秀には勝てないだろ?俺はそんな勇気は持ってないんだ。
『そっか、舜が好きな人が出来たら最初に俺に言えよ。俺、全力で応援してやるから。』
俺は出来る限りの笑顔を作った。でも、ちゃんと笑顔になっているかなんて自信なかった。
「…康祐…秀のどこが好き…?」
聞いたら辛くなることぐらい分かっていた。だけど、どうしても康祐を取られたくなくて振り向いてくれる方法が知りたかった。
『そうだな、、、秀って何でも出来て、優しいし、頭もいいし、なんていうか秀の全部が好きかな…。』
康祐は笑っていた。いや笑っているというよりもここじゃないどこかに想いを馳せているようだった。
『それに、秀って生徒会とかいろいろ頑張ってるだろ。俺、頑張ってる奴が好きなんだ。で、その頑張ってる奴に頼ってほしい。て言っても今の俺じゃ足りないかもしれないけどな。』
そう言った康祐の顔は少しだけ悲しそうだった。
『頑張ってる奴』か、、、そんなの知ってる。だって前に聞いたじゃないか。康祐の好みはどんな人かって…。
なあ康祐…。
知らないだろ。俺も結構頑張ってるんだ。康祐に振り向いてほしくて、笑いかけてほしくて、想いを伝えたくて、俺なりに努力したんだ。
俺なりに康祐のタイプの人間になっているつもりだった。でも、それは俺の自惚れだったんだな。
康祐を取られたくないと思った。康祐に俺だけを見てほしいと思った。
それは俺の自惚れだったんだな。最初から康祐は秀のことしか見ていなかったんだ。俺はただ利用されていただけ。
秀とつながるためだけの仲立ちに過ぎなかったんだ。
俺はただの『好きな奴の弟』だったんだ。
笑えないよな、そんな冗談。同じ顔で、同じ時に生まれて、同じように育って、同じ時に出会って、同じじゃないなんて、、、
あいつは特別な存在で、俺はその他の存在なんて…。
散々比べてきたくせに、、、散々秤にかけたくせに、、、
最初から比べる意味すらなかったなんて、、、
俺って何なんだよ…。
苦いコーヒーも、冷たい手も、笑っている康祐の顔も、俺の存在を否定しているように思えた。
この時、俺は必死に縋ろうと思ったんだ。