『また、康祐としたのか?』

「別にお前には関係ないだろ。そんなことまでいちいち口出しすんなよ。」

『別に差別してる訳じゃないけど、止めたほうがいいんじゃないか…。』

「関係ないって言ってるだろ!」

思わず大きな声がでる。秀は少し呆れたようにため息をついた後「分かったよ。」とだけ言って部屋から出て行った。

康祐とつながっていた幸福感が一気に冷めていく。
あの余裕な感じも、上から物を言う態度も、中途半端な優しさも嫌いだ。というかあいつだから嫌いだ。もし他の誰かならまだ許せたのかもしれない。

あいつだから、、、ダメなんだ…。

枕に顔を押し付けた。そこからは、まだ微かに康祐の匂いがした。それだけで少しだけさっきの幸せが蘇ってくる気がする。

「…康祐…」

愛しい人の名を呼びながらそのままの格好で俺はゆっくりと眠りに落ちていった。

次に目が覚めたのは、もうすっかり日が暮れて下から名前を呼ぶ声が聞こえた時だった。
俺はベッドから抜け出て落ちていた服を適当に着て、下の階へと降りた。リビングからはにぎやかな声が聞こえた。

部屋に入ると、先にテーブルについていた母と秀が楽しそうに話をしていた。

『秀はすごいわね。この前のテストでも学年一位とったんでしょ。』

「うん、まあ一応ね、、、」

何が一応だ。どうせ心の中では当たり前と思っているんだろ。

『本当に秀はお母さんの自慢だわ。今度お寿司でも食べに行きましょうね。』

「でも、、、お寿司は舜が嫌いだし…。」

「別に俺は構わないよ。二人で行ってくれば?俺は適当に食べてるからさ。」

『ほら、舜もこう言ってるし行きましょうよ。』

「舜、本当にいいのか?別にお寿司じゃなくても舜も食べれる物でいいんだぞ。」

「いいって言ってるだろ。母さんと一緒に行けよ。」

どうせ母さんは俺のことなんて考えていないんだからな。自慢の息子のお前と違って俺はできそこないだから。

それからも母さんは秀のことを褒めるばかりで、そのほかのことは話題には上がらなかった。
俺がリビングを出てからも母さんはずっと話し続けていた。その最後に微かに、でも確かに聞こえた。

『それに比べて舜は…。』

俺は何も言わずに自分の部屋へと戻った。



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