外灯が光る暗い道を2人並んで歩く。東司さんはさっき俺がつけていた自身のマフラーしている。
しかし、手袋はせずにポケットに手を突っ込んでいる。吐く息が白く風に流れていく。
夜風は昼のそれよりも冷たく2人の間を通り抜けていく。
道の脇にひと際光る自動販売機が目に入った。東司さんは「ちょっと待ってて。」と言って駆け寄った。
東司さんは小銭を何枚か入れて俺に聞いてきた。
「コーヒーでいい?」
そう言われた俺は恥ずかしくなって俯いた。しかし、その意味を取り違えた東司さんは1つ溜息をついて言った。
「迷惑じゃないから。遠慮するなよ。」
「……ココアがいい…。」
俺は小さく呟いた。
「あ、ココアの方がよかったんだ。それなら初めから言えよ。」
東司さんは小銭を数枚入れてボタンを押した。ガタンという音がして東司さんは下から2つ缶を取り出した。
「はい、ココア。」
差し出されたココアは冷たい指にはとても熱く感じた。そして、その向こうに見える東司さんの顔も柔らかく温かかった。
再び2人並んで歩きだす。口にはココアの甘さが残っていて2人を照らしている月光のようだった。
横に目線を移すと東司さんがいる。そして、それが当り前のように感じている自分がいた。
(かっこいいな、東司さん、、、)
ふと、そう思った自分に溜息をつく。もう自分の気持ちには気付いていた。
最初は兄弟みたいで憧れているだけだと思った。けど、それは違った…。
この感情はそれ以上のモノだ。でもこの気持ちをどうにかする術は分からなかった。
柔らかな表情。落ち着きのある言葉。兄貴肌の性格。時々見せる子供のような眼。
その全てが愛おしく一番傍に居たいと思った。
(…好きだな、俺。東司さんのこと、、、)
胸に響いたその呟きは当たり前だが東司さんに届く訳もなく、相変わらず東司さんはポケットに手を突っ込んで歩いている。
「あの、、、東司さん…。」
ちょっと先に行ってしまった東司さんを呼び止めた。しかし、呼び止めたものの気持ちは素直に言葉になる筈もなかった。
「寒かったら、手袋使って下さい…。」
そう言って自分のものでもない東司さんの手袋を差し出した。
「大丈夫だって。俺、体強いから。」
そう言って手袋を外した俺の手を東司さんは包んでくれた。その指先はとても冷たくて、俺はちょっと悲しくなった。
「何だったら手でもつなぐ?」
冗談ぽく言って俺の手から離れようとした東司さんの手を俺は咄嗟に強く握った…。
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