それから食べ終わった食器を洗い場において東司さんは「始めようか」と言った。
俺は何のことか分からずに「?」みたいな顔をしていた。

「? て勉強だよ。勉強!」
東司さんに言われて思い出した。俺はここに勉強を習いに来たんだった。

俺は慌てて部屋の隅に置いていたバッグを引き寄せて、筆箱と数学の問題集を出した。

「どこら辺がわかんない?」

「関数がさっぱりで…。」

「関数かぁ、引っ掛かりやすいけど、コツつかめばすぐわかるようになるって。」
東司さんは問題を見ながらページをぱらぱらとめくっていった。

「まぁ、まず本当の基本からだな。比例、反比例、一次関数の式は?」

「えっと、、、」
それから本当の基礎の基礎まで突き詰められたのは言うまでもない。

東司さんは、各関数のグラフの読み取り方、式が表わしていること、代入の仕方など丁寧に根気よく教えてくれた。

東司さんの携帯がなったとき、初めて外が真っ暗になっていることに気がついた。
東司さんは携帯を閉じると俺の様子に気がついたのか微笑みながら言った。

「もう、帰ろうか。家まで送るよ。」

「あ、大丈夫です。勉強まで教えてもらって、その上送ってもらうなんて迷惑だし…。」

「迷惑じゃない。こんな暗いのに1人で帰らせたら心配で逆に迷惑だよ。」
そう言って東司さんは俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。

俺は恥ずかしいとも嬉しいとも分からない不思議な感覚で頬を紅らめた。

「おっと!」
東司さんは何かを思い出したように部屋の奥へと入って行った。

しばらくして出てきた東司さんの手には先のとは違うマフラーと手袋が携えられていた。

「はい、これ。外寒いだろうから。」
東司さんはさっきと同じように俺の首にマフラーを巻きつけた。
さっきと違うマフラーにはさっきと同じ東司さんの匂いがした…。




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