「じゃあ入って。」
東司さんに案内された部屋には必要最低限のものとその中にひと際目立った本棚があった。

「秋って言っても、もう寒いな。大丈夫?」

「あ、はい大丈夫です。これありがとうございました。」
俺はつけていたマフラーと手袋を差し出した。すると東司さんはにっこりと笑って「どうも。」と言った。

「何か食べる?簡単なものなら作るけど、、、」

「東司さん料理できるんですか?」

「馬鹿にするなよ!だてに何年も1人暮らししてないからな。」

「じゃあ何でもいいです。できれば温かいものがいいです。」
本当に何でもよかった。東司さんが俺のために作ってくれるのなら何でも…。

「じゃあちょっと待ってろよ。今作るから。」
そう言って東司さんはキッチンへと入って何やら用意をし始めた。
俺はその間東司さんの横に立ってリズミカルに動く東司さんの手を見ていた。
東司さんの手によってどんどん料理が作られていく。

「できたぞ。」
そう言って東司さんが作ったのはたくさんの野菜が入ったコンソメスープだった。
以外にも彩りもよく、いわゆる『男の料理』といった感じではなかった。

「おいしい…。」
そのスープはとても温かく何よりとてもおいしかった。

…しかし、そこには忌々しいその姿があった。オレンジの姿をしたニンジンが、、、

俺はニンジンだけはどうしても苦手だった。子供の様だが絶対に食べれない。
皿の端にそのオレンジの物体を寄せる。

「あっ!なにニンジン寄せてんだよ。ちゃんと食え!せっかく作ってやったんだから。」

「でも、ニンジンだけは、、、」

「ちょっと貸してみろ。ほら、あ〜ん。」
東司さんはスプーンにニンジンを取り俺の口に寄せてきた。

「自分でできるからいいです。」
俺は恥ずかしくて東司さんが持っているスプーンを取ろうとしたが東司さんはそれを阻んだ。

「いいからいいから。はい、あ〜ん。」

『あ〜ん』と言いながら自分も口をあけている東司さんの姿を見ながら俺は思わず口をあけていた。

口に押し込まれたオレンジのそれは甘くおいしかった…。






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