ある日俺がいつものように本の整理をしている東司さんと話しているとこんなことを聞かれた。
「好きな人とか居ないの?」
前付き合っている人はいた。でも、それは長続きしないこと。
何かかけているような気がしていたことを話した。
すると東司さんは納得した様子で本棚に目線を戻した。
「そういえば、いつもここ来てるけど塾とかは行かないの?今の子で塾に行かないのは珍しいと思うけど…。」
「塾に行ってもどうせ置いてかれるだけだし…。でも今のままでもやばいんですよね。」
「じゃあ俺が教えてやろうか?仕事が終わった後でいいなら教えるけど。」
「えっ!?いいですか?お願いします!今日からお願いできますか?」
「今日からか、、、俺は大丈夫だけど直輝の方は大丈夫なのか?親とかは?」
「大丈夫です。携帯で連絡しますから。それに今日は遅くなるって言ってたから。」
「そうかじゃあ仕事が終わるまで待っててな。と言っても、もう30分もないけど…。」
「はい!それまでここで待ってます。」
俺は図書館にも関わらず大きな声で返事をした。図書館中の視線がこちらに集まった。
東司さんは慌てていたが俺はそんな事は気にせず、そんな東司さんの顔を見ていた。
俺が机に座っていると定刻を知らせるチャイムが鳴った。そして閉館時間を知らせる放送が鳴り響いた。
しばらくすると東司さんがあの事務所らしき所から出てきた。
「待たせてごめんな。じゃあ行こうか。」
図書館の自動ドアをくぐると冷たい秋風が吹いた。俺は思わずぶるっと身震いをした。
「その恰好じゃ寒いな。」
そう言って東司さんは自分が付けていた手袋とマフラーを俺につけさせた。
「これじゃ東司さんが風邪ひくからいいです。」
俺はマフラーを取ろうとしたが再び東司さんにしっかりとまかれた。
「受験生が風邪ひいたらいけないだろ。俺は別にいいから。」
そしてあの時のように俺の頭をくしゃくしゃにした。
俺は何だか照れくさくてマフラーに顔をうずめた。マフラーからは東司さんの匂いがした…。
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