「俺は生姜焼き定食で。」
「じゃあ俺もそれで。」
そう言うと店員は一種類しかない注文を律儀に繰り返した。
店員が厨房らしき所に入っていくと2人きりになって何を話せばいいのか分からなかった。
そんな中先に口を開いたのは東司さんだった。
「そう言えば、まだ名前も聞いてなかったね。名前なんて言うの?」
「西宮、西宮直輝です。まっすぐに輝くって書いて、、、」
「直輝か、いい名前だね。まっすぐに輝くなんてかっこいいよ。俺の名前は、、、」
「東司さんですよね?東司克裕さん…。」
俺はつい言葉に出してしまった。
「そうだけど、よく知ってるね。なんで知ってるの?」
「あの、、、その、、、図書館のエプロンについてる名札にそう書いてあったから…。」
「あぁ、そっか。でもそれだけで覚えてるなんて記憶力いいね。これなら勉強も問題なしかな?」
「いや、勉強は、、、」
「ははっそうか苦手か。俺も受験のとき苦労したなぁ。英語なんて特に苦手だったな。」
東司さんは笑いながら昔のことを思い出してるようだった。
「東司さんは何歳なんですか?」
俺は思い切って話の流れにのせて聞いてみた。
「俺?25歳だよ。ちなみに独身の彼女なし。」
「えっ!?彼女いないんですか?かっこいいからいると思ってた…。」
「うれしいこと言ってくれるな。」
そう言って東司さんは俺の頭を乱暴につかんでくしゃくしゃにした。
俺はそのことがなぜか無性に嬉しくその大きな手がとても大切なものに思えた。
それから俺たちは学校のことなど他愛のない話をしながら注文した生姜焼き定食を食べた。
食べ終えると東司さんに会計をしてもらって店を出た。
「どうする?俺は昼からも仕事あるから図書館に戻るけど。」
「俺も戻ります。もうちょっと勉強したいから、、、」
それは完璧に嘘だった。
「そっか、じゃあ行こうか。」
そして行きと同じように俺と東司さん2人肩を並べて図書館へと戻った。
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