(えっ!?今先輩なんて?)
先輩は帰ろうとした僕を呼びとめて近づいてきたかと思うと抱きしめてきた。そしてこう言った「好きだ。」と。
僕は混乱していた。何が何だかわからなくなっていた。
先輩が今言ったことの真意を探るようにさっきの言葉を頭の中で反芻する。
好きだ?先輩が?僕を?男を?
この時僕はもうきずいていた。自分が先輩のことをただ、たんに憧れているのではないことに。
先輩のことが好きなことに。
だからと言って先輩が僕のことを好きだという事には全然きずかなかった。だから思うように言葉がでない。
先輩の力が一瞬強くなったと思ったらその力はすぐになくなり腕が体から離れた。
「いきなりごめん!気持ち悪いよね。忘れていいから。って言うか忘れてください。」
先輩はそう言うと後ろを向いて帰る準備をし始めた。
落ち着いた僕は先輩の後ろ姿を見ながら気持の整理をしていた。
(先輩も僕のことが好きだったんだ。僕は先輩をずっと見てきた、そして先輩も僕のことを…。)
「先輩?いつからですか?」
「いつからかわからない。きずいたら気になってた。」
「あっ!でも、もう忘れていいから。ほんとにごめんね。」
先輩は立ち上がると目を合わさずにドアに向かった。
その時思った。先輩は勇気を振り絞って僕を呼びとめた。今度は僕が呼び止める番だと…。
「先輩、待って下さい!」
大きな声を出して先輩を呼び止める。先輩は振り返らずに立ち止まった。
思わず声をかけてしまったが何と言えばいいのかわからない。
今まで何百何万、それ以上の言葉を使ってきたはずなのに今この場面で使う言葉が出てこない。
TVのドラマでのいろいろなカッコいい決め台詞なんて出てこない。
先輩はいづらくなったのかドアに手をかけて出て行こうとした。
もう時間がない!そう思った時にとっさに言葉がでた。
「好きです。」
胸が圧迫されるような窮屈感と全力疾走したあとのような疲労感を感じた。
その時思った。とっさに出た言葉程ほど素直で気持ちのこもったモノはないんだと…。
1言がでると自分の感情が口から溢れるようにでてくる。
「先輩のことが好きです。前から好きでした。先輩があのボールを取った時から。先輩のことが…。」
そう言ったとき急に感情が抑え切れなくなって涙が溢れてきた。
いままで我慢してきた感情を本人に伝えた喜びと、互いに想い合っていた事実を知って、それが涙となって溢れてきたのだ。
視界が歪んでいく。涙を制服の袖で拭う。その時体が温かい熱に包まれた。先輩が僕の体を抱きしめてくれていた…。
先輩の笑顔がみえる、僕はその笑顔を見るとなんだか恥ずかしくて先輩の胸に顔をうずめた。
「ありがとう。」
その時の先輩の笑顔はあの日のように輝いていた…。
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