あの日のように夕日を眺めていた。ただボーっと。
その時、あの日と同じように電話の大きな電子音が響いた。
心がざわついた。
母が取ったのか、その電子音はピタリとやみ静寂が訪れた。
暫くして母が階段を上ってくる音が聞こえた。
いやだ。
ドアを開けないでほしい。
違う部屋に入ってほしい。
僕に話しかけないでほしい。
しかし、そんな僕の願いは打ち砕かれた。あの日と同じようにドアが開き母の顔が覗いた。
気付いた時には病院にいた。いつしか通い慣れてしまった大きな病院の小さな個室。
そこに君の姿はなくやけに整えられたベッドがあるだけだった。
君の姿は暗く狭くひっそりとした病院の隅にある部屋にあった。
その真ん中に君は白い布にくるまれて横たわっていた。
「紀くん?」
僕が呼びかけても君はいつものように笑顔で受け入れてくれない。
肌に触れてもいつものように温かく包んでくれない。
いつもつけてくれていたミサンガも君の腕にはない。
違う。嫌だ。嘘だ。
紀くん。いつものように笑ってよ。
いつものようにその手で頭を撫でてよ。
約束したじゃん。一緒に海に行くって。
今度家に帰ってきた時一緒に遊ぼうって。
僕、楽しみにしてたんだよ。
紀くんと一緒に遊ぶからって新しいゲームも買ったしサッカーボールも野球のバットもボールも買ったんだよ。
紀くん。ねぇ、、、紀くん、、、
起きてよ。笑ってよ。話してよ。頭を撫でてよ。
ねぇ、、、紀くん、、、
何を思っても何も答えてくれない冷たい君の代わりに紀くんのお母さんが渡したのは真っ白な封筒だった。
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