「健太お見舞いに来てくれたんだ。ありがと。」
君は笑顔のままで僕を迎え入れてくれた。
僕は紀くんが横たわっているベッドにもたれかかった。
ベッドが軋む音がした。
「紀くん、大丈夫?」
僕は言葉に意味を持たせるよりも紀くんの声がもっと聞きたくて問いかけた。
「大丈夫!今日はごめんな健太。海、一緒に行こうって言ったのにな…。」
「いいって。紀くんが治ってまた行こう!」
「ああそうだな。そうだ、、、」
紀くんがベッドの下のたくさんの荷物から出したのは小さな包みだった。
「誕生日おめでとう!海は行けなかったけど、これプレゼント。」
その包みには手作りと思われるミサンガが入っていた。
「あまり上手く出来なかったけど…。」
「十分うまいよ!大切にするからね。でも、海に行くのも忘れないでね。」
「わかってるよ。約束だ。」
その日から僕は毎日のように紀くんの病室に通った。
その度に紀くんは笑って迎えてくれたし、いろいろなことを話した。
でも、いつも話すのは僕だった。僕の話に紀くんは相槌を打つ。そんな会話だった。
そして、僕が帰る時は必ずあの約束をして帰る。
「一緒に海に行こうな。」
そう言う紀くんはいつも笑顔で、それでも少し憂いを帯びたように見えた。
だけど、紀くんが入院してから2回目の夏が来ても君はベッドに横たわっていた…。
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