僕は紀くんからの電話だと思って電話へと急いだ。
しかし、電話は先に母に取られていて、母は僕の顔を見ると一瞬曇った顔をした。
僕は、何のことか分からなくて自分の部屋へと戻った。
暫くすると、母の暗い顔が部屋をのぞいて僕の名前を呼んだ。
「紀くんが病気で倒れたそうよ。」
母の言葉は濡れていて、急だった。
意味が分からなかった。紀くんが病気?倒れた?
意味が分からなかった。でも僕は理解したつもりでいた。
だから、紀くんは今日来れなかったんだ。じゃあ仕方がないな。
そんな風に思っていた。
でも違った。
母に連れてこられた病院はいつも僕が風邪で来るような病院ではなく、テレビでしか見たことが無いような大きな病院だった。
機械的な受付の事務員の声。
点滴を引きながら歩く人々。
泣きながら電話する人。
その全てが僕を一気に不安にさせた。
受付で聞いた病室に向かう。僕はドアを開ける勇気がなくて母がドアを開けるのを待った。
ゆっくりとドアが開けられる。
整えられた真っ白なベッドに笑顔で横たわる君の姿があった。
その笑顔は優しくて、いつもの紀くんで、僕の不安は一気に吹き飛んだ。
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