東司さんは呆れたような、吹っ切れたような溜息を一つ吐いた。

「なぁ、直輝。俺ってそんなに素っ気ないように見えるのかよ。」

「そうじゃないけど…。だって…

俺が言い終わる前に俺の唇は東司さんのそれで塞がれていた。
東司さんはいつもそうだ。いつも急で、大胆で、それでいて優しいんだ。

東司さんの舌が俺の口の中に入ってくる。温かいそれを求めて俺も舌を絡める。
それは長く、甘いキス。東司さんの熱が伝わってくる。
頭が熱にうなされた様に真っ白になって何も考えることができない。

暫くして東司さんの顔が離れていった。東司さんの顔も真っ赤に染まっていた。
きっと今の俺の顔も真っ赤に染まっていたと思う。

「直輝。」
東司さんの低くずっしりとした深みのある声が自分の名前を呼んだ。
俺はただ頷いた。これでわかったから。東司さんが俺のことを愛してるってことが。
いや、わかったというよりも、感じたから。東司さんの想いを感じさせられたから。

「そんなにあの本が気になったのかよ?」

「だって、、、あの本、東司さんと初めて会った時に読んでた本だから…。」

「だからってなぁ、、、ちょっと待ってろよ。」
東司さんは俺の頭をくしゃくしゃと撫でで部屋を出ていった。

暫くして出てきた東司さんの手には見慣れたものがあった。
見慣れたタイトルに見慣れた表紙のデザイン。そう、原因のあの本だった。

「これ直輝に遣るよ。俺からのプレゼント。」

「はっ!?東司さん俺の話聞いてた?何、それとも当てつけ?」

「そんなに怒るなよ。文句言うならちゃんと中身見てから文句言え。」

何のことか分からずに俺はページを捲ってみた。

しかし、別に何もない。何かが挟まっているでもなく、本の中身が違うということでもない。
変化は最後のページに差し掛かった時に訪れた。俺が不安になった原因、、、

そのページはなくなっていた。千切られた跡がある。
そして、残ったページの最後の行にはこう記されていた。

「俺は、君を愛している。」
そんな、くさい、聞いている方が恥ずかしくなるようなセリフ。
そんなセリフで締めくくられた物語は東司さんから俺にくれた物語。
きっと、俺の中で断トツのベストセラーになる物語。

「俺もです!東司さん!」

-END-





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